こんな状況だからこそ、KYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)2026について、どこよりも気が早いレビューを書いてみたくなる
世界があちこちで瓦解していて、どうにも腹立たしくて哀しくて、それでも季節はめぐってくる。今年も4月18日から約一ヶ月にわたり京都国際写真祭「KYOTOGRAPHIE」(以下KG)が行われるわけで、「早く春になってほしい」という気持ちに連動して、今年もできるだけボランティアスタッフとして参加しようと決めている私はさっそくそわそわしている。
今年のテーマは「EDGE」ということで、すでにメイン展示のプログラム内容や開催場所が広報されている。もちろんこの数日間のあいだにさらに深刻度を増しつつある世界情勢の影響で、人々やモノの移動などに予想外のアクシデントが起こりえる可能性も想定されるので、これから本番に向けて変更になったりする部分がいくつか出てくるかもしれないが、ひとまず現時点での情報をもとに、「気の早すぎるレビュー」として、私が気になるポイントをここに書き散らかせていただく。こんな状況下だからこそ、めぐる季節によってやってくる楽しいモノゴトは大事に味わいたいし、「祭」とはそういうものだ。
なお私のスタンスは、
・そんなに古今東西の写真家についての知識はない
・そんなに現代アートにも詳しくない
・そんなにガチで写真を撮るレベルにない
・そんなに長年KGのボランティアをやっているわけではない(今年で3回目)
・そんなに以前から毎年熱心な客としてKGを鑑賞していたわけではない
ということをあらかじめお断りしておく。
そんな私が今シーズンのKGの何にこんな早い段階から盛り上がっているかといえば、
アントン・コービンの展示が!!
今年は!
あるんですってば!!
そのことを言いたいがためにこの記事を書いているようなものである。
アントン・コービンといえば。
中学生の頃から、文字通り中2病のごとく、いまだに聴き続けているU2の『The Unforgettable Fire』や『The Joshua Tree』のアルバムジャケットなどをはじめ、初期のころからのU2の姿をたくさん撮影し、他にもジョイ・ディビジョンの写真もバンドの存在感を決定づける作品を多く残しており、その他たくさんのロックスターのポートレイトを手がけた、ベスト・オブ・ロッキンフォトグラファーである。
ジョイ・ディビジョンといえば夭折したカリスマ・ボーカリストのイアン・カーティスの半生を描いた映画『コントロール』を監督したのもコービンである。コービンならではの写真観そのもののようなモノクロームの映像によって、彼らの伝説の日々を限りなくリアルに描ききった作品で、当時私はこの映画を、学生時代の同期でU2ファンであったウメさんと東京で会った折りに、渋谷の映画館で一緒に観に行った・・・ちなみにこの記事を準備していた最中、「映画を観た場所って渋谷で合ってたっけ? 久しぶりにウメさんに連絡とって訊いてみようかなーどうしようかなー」となっていた矢先、恒例の京都マラソンでの「サッカーユニフォーム姿のランナーさん応援企画」をやっていたら、千葉にいるはずのウメさんがサプライズでランナーとして参加して目の前にやってくるという出来事がおこる(こちら参照)。ナイスすぎるだろウメさん・・・。
ということで、まさかKGでアントン・コービンという展開は予想していなかったので熱い。おまけにU2のギタリストの名前はEDGEである。今回の全体テーマにもピッタリである(強引)。
コービンの展示会場は「嶋臺(しまだい)ギャラリー」ということで、地下鉄の烏丸御池駅すぐの場所でアクセスも良く、古い町家を活用した展示に期待大である。
個人的には昨年までのKGにおいて、私にとってのベスト・ベニューでありつづけた京都新聞社ビル印刷工場跡地での展示が今年からはなくなってしまったので、テンションはやや下がり気味であったのだが、そんなところへアントン・コービンの展示が決まったとあり、おかげで今年も私は前のめりでボランティアスタッフに臨めそうである。
そしてもうひとつ強烈にプッシュしたい展示は、ウルグアイ出身のフェデリコ・エストル「Shine Heroes」だ。ボリビアのラパスにおいて、靴磨きに従事する人々は差別的なまなざしを避けるべく覆面で仕事をしている人が多く、エストルらは支援団体とともにアートの力で彼らを取りまく状況をとらえ直し、靴磨き職人を「覆面ヒーロー」として読み替え、そこから新たな文化的アイデンティティを創出するというプロジェクトを展開しているとのこと。それで気付いたが、私は自分自身の生活でもこの「読み替える」という作戦を重視して好んでいるのだろう。たとえば市民マラソン大会の現場を意図的に「読み替えて」サッカーファンを応援する場にしてしまうという試みも、その流れにあるわけだ。
このエストルの作品群は昨年のKG+SELECTで出展されていて、見事にアワードを受賞したことで、晴れて2026年KGのメイン展示として改めて単独の個展が開催されることになった。私も昨年のこの展示には強く印象づけられた一人で、ぜひ深掘りした内容で翌年も観てみたいと願っただけに嬉しい。そして予定されている展示会場となるのは、誉田屋源兵衛の「黒蔵」とのこと。そこがさらに「うおぉ!?」となるポイントであり、当の誉田屋の社員さんにも「なぜこれが建てられたのかよく分かっていない」と言わしめるほどの黒く大きい蔵の放つ謎めいたムードは、まさに「覆面」を捉える本作品群の展示空間としてはさぞかしハマることになるだろうと期待を込めて断言できる。
そして同じ誉田屋源兵衛では「竹院の間」のほうで、ケニア出身の写真家タンディウェ・ムリウ「Camo」の展示が行われる。布をテーマにした作品で知られる作家とのことで、鮮やかな布の背景と、自身のまとう衣装によるカモフラージュをとらえた印象的なキー・ビジュアルが告知されている。そもそも誉田屋が着物の帯をあつかう老舗だけに、テキスタイルというモチーフでのつながりが想定されているのだろう。会場に足を踏み入れたときに迫り来る色彩と、古きよき商家の空間のミクスチャーによる鮮烈なコントラストが想像される。
展示作品そのものに加えて、会場がどこに設定されるかで、観る前からの期待度がより強く増していくのはKGの素敵なところである。
このムリウは東アフリカの人だが、今年のKGは南アフリカの写真家も多くフィーチャーし、「SOUTH AFRICA IN FOCUS」と銘打って次の4つのプログラムが展開される。
アーネスト・コール(京セラ美術館)
ピーター・ヒューゴ(京セラ美術館)
レボハン・ハンイエ(東本願寺 大玄関)
“A4 ARTS FOUNDATION”(八竹庵)
アパルトヘイト下の歴史的記録を遺し、日本初公開の大規模展として紹介されるアーネスト・コール。そのコールの没年時に生まれた若いアーティストとしてのレボハン・ハンイェに、長いキャリアを重ねるピーター・ヒューゴと、それぞれの展示には同じ地を舞台にした異なる時間軸の位置づけが伺える。そしてKGのインフォメーションセンターである八竹庵では、南アフリカにおける1950年代からの抵抗的な表現実践について理解を深められる場として、ケープタウンを拠点とする、アートをめぐる支援団体「A4 ARTS FOUNDATION」による写真集(ブックメイキング)の展示などが行われる。
なお八竹庵ではそれに加えてもうひとつ展示がある。パレスチナの写真家としてガザ地区の姿を世界に発信しつづけ、2025年4月にイスラエルによる爆撃で命を落としたファトマ・ハッスーナの追悼展示が予定されている。八竹庵は無料で入れるインフォメーション・センターとしての中心的な役割をふまえつつ、その年ごとに伝えたいメッセージ性がダイレクトに込められた展示に出会える場でもある。この数日のあいだの情勢によっては、いろいろな面で緊張感が高まる会場になりかねないが、それはそれとして引き受けていくべき部分でもあろう。
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私はボランティアとしてKGに関わるようになってから、KGにおけるあらゆる展示を網羅的に接することで、KGが毎年企画する展示においては、内容のジャンル分けのようなものがバランス感をもって設定されていることを実感するようになった。観客の側でいた時代にはあまり気にしなかった部分でもある。
そうした「自分なりのジャンル区分」でいえば、今年の「日本の大御所写真家の部」として森山大道の回顧展(京セラ美術館)、「自然環境の部」ではジュリエット・アニェルの植物と鉱物の作品(有斐斎弘道館)、「若手日本人写真家を応援しようの部」では福島あつしによる農業の営みをめぐる作品展示(ygion)、「KGイチオシの、アワード受賞者の部」として柴田早理のフランス・シャンパーニュでの葡萄畑と女性の作品群(ASPHODEL)、「シャネルが協賛する女性写真家特集の部」としてリンダー・スターリングの日本初個展(京都文化博物館)が予定されている。
この中ではとくに70年代英国パンクシーンから出てきたというリンダー・スターリングの展示は観客としても楽しみであるし、そしてまたボランティア・スタッフの立場からしてみたら、こうした「シャネル協賛の部」とか「ディオール協賛の部」といったブランド企業とのコラボレーション展示に関わるときは、いつも以上に緊張感を覚える。なぜならお客さんからしてみたらこんな私でもその日だけはシャネルやディオールの看板の下で動くスタッフの一員になるわけなので、現場では「わたしもシャネルです」みたいな表情や身振りを試行錯誤し続けたくなるわけだ・・・無駄な試みと言われようとも(笑)。でもそういうこと自体が、ボランティアを楽しむポイントだったりもする。
そして、あくまで私の主観ではあるが、KGのなかには「この特別な場所だからこそ、この写真作品を展示してみました部門」というのが毎年あり、今年でいえばイヴ・マルシャン&ロマ・メェッフェルの「重信会館」での展示が挙げられよう。実は今回の発表があるまで、そもそも私は重信会館という建物については何も知らなかった。真宗大谷派の研究所であったり大谷大学の学生寮などに使われてきたという古い建物がまだ残っており、ツタがたくさん覆い茂るこのモダンな建物のなかで「近代建築の廃墟」をテーマとする作品を鑑賞できるというのは、なかなかの体験となるであろう。
そんなわけで、とりまく世界の状況は落ち着かないけれども、KGは今年もさまざまな角度からの発見や鮮烈なイメージを、わすれがたい一瞬において感じさせてくれるイベントになるだろうと期待している。そしてお客さんとして楽しむのはもちろんのこと、どんな短い単発のシフトでもボランティアスタッフを随時募集しているようなので、KGというイベントそのものを味わうチャンスとして捉えていただければ幸いである。






























































































































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