今回のロンドン五輪では、メダルを獲得すればそれだけで大成功であることはすでに述べたとおりで、何より44年前の男子を上回る銀メダルを獲得したのだから、本当に大健闘である。
リアルタイムに表彰式をテレビで観ながら、最後までなでしこジャパンのメンバーはパフォーマーとしても「金メダル」を狙いにいく姿勢を見せていたことが誇らしかった(笑)。
でもそんななか最年少の岩渕は、悔しさをにじませる表情を最後まで通していたのもまた印象的だ。9日後に日本で開催される女子U-20W杯には岩渕は出場しないことになったが、ぜひU-20代表 の面々も、この岩渕の表情を共有して、新たなステージに挑んでもらいたいと思う。
何より実感したのは、サッカーの聖地ウェンブリーで、五輪の表彰台に銀メダルを胸にして立つという、いままで誰も成し遂げることのできなかった偉業を達成した人々の姿がそこにあったということだ。
昨年のW杯から続いた一連のなでしこジャパンの快進撃、これを今後の日本サッカー界はスタンダードとして、さらに進化していくことになる。
・・・と、ここでブログを終えてもいいのだが。
あえてこの決勝戦の最後の最後まで自分のなかで引きずっていた「心残り」について書いておきたい。
この決勝戦、相手はアメリカ。十分すぎる舞台設定だった。
しかし、だからといって、「澤の代表引退試合的な舞台」にしてはいけなかったのである。
そういう表現は、このオリンピックを闘いぬいた選手・スタッフ達にはたいへん失礼なことであることは承知である。
でもどうしても思ってしまうところがある。なぜなら「澤の代表引退試合的な舞台」というポイントは、「宮間をサイドで使い続けたこと」の問題にリンクしているからである。
宮間自身もじゅうぶん分かっていると思うが、今大会での宮間はセットプレー以外において、相手の脅威になるようなプレーが昨年のW杯に比べてほとんど少なかった。
とくに彼女のプレースタイルとしては、自分からドリブルをしかけるわけではなく、このチームにおいて宮間は「サイドから基点をつくる」という役割を全うしてきた。
しかも去年のワールドカップと違い、今回は右サイドに据えられていた。
今回のアメリカ戦を見ていても、相手のディフェンダーには「宮間はドリブルでは来ない」ということを前提に守られていたフシが見受けられ、そうして宮間にボールが収まっても近賀の攻めあがりを待ってしまい、相手を突破できそうな絶好のタイミングを逃してしまうシーンがあったりした。なので相手の守備においては、宮間は「サイドにいる限りは守りやすい相手」となってしまっていた。
こういう傾向があったことは大会が始まってからすでに分かっていたはずなのだが、結局最後までこの問題はクリアされることがなかった。それが心残りなのだ。
4月のキリンチャレンジカップでブラジル代表との試合を観ていたが、途中から宮間は真ん中にうつり、そこからボールがうまく回りだし、チャンスが増えていった印象がある。
そして湯郷ベルでも彼女は真ん中からゲームを組み立てているわけで、どうしたって宮間はサイドではなく真ん中でゲームをコントロールしてほしいと常々思ってきた。真ん中でボールをさばかせたら遠藤保仁同様、世界でも屈指のプレーヤーだということは疑いのないことだ。
なのでこの試合、佐々木監督は1点を追う残り15分で「澤を外して宮間を真ん中にする」という冷徹な采配ができたかどうか、そこに尽きる。
大野と丸山を替えるのではなく、大儀見・大野の2トップのバランスを残しつつ、真ん中に宮間と田中で、そして両サイドにドリブラーの岩渕と川澄がいたらと想像してしまう。もし延長戦までいけたとして、この布陣なら大きくバランスを崩すこともなく、30分間でビッグチャンスを何度か作ることはできたと思う。
と同時に、澤がピッチを離れることで失われる部分の「極限状況下における精神的支柱」を、文字通り次世代のキャプテンがどこまで引き受けられるのか、そういうシーンが私は見たかったのだろうと思う。
この一日、そのようなことについてずっとぼんやり考えていた。
いずれにせよ銀メダルはすばらしい結果であり、これはまさに「次へのはじまり」を告げる試合であった。3年後のカナダW杯、4年後のリオ五輪がますます楽しみになってくる。そしてまた我々は新しい光景に出会うのだろう。
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