なでしこ×南アフリカは凡戦ではなくむしろ貴重なケーススタディだったという意味で語り継がれるべき試合だと思う。
90分を通して、たしかに、面白味に欠ける凡戦だったのだが、しかし。
試合後、佐々木監督は「試合途中で2位狙いを指示した」ということを明らかにした。
そしてこのことでいろいろと議論もあるだろうが、私が思うに、「2位狙いだった」と明らかになったことでこの試合は一転して「非常に興味深い試合」となった。
結論から言えば、グループリーグを2位で通過した結果、次の決勝トーナメントの相手はブラジル(4月に神戸でキリンチャレンジカップをやったときに圧勝した)、会場は今回と同じカーディフでの開催となった。
もし1位通過だと、相手は(先日の親善試合で完敗した)強豪フランス、会場は長距離移動を伴うグラスゴーとなっていた。
つまり、日本にとってもスウェーデンにとっても、この組み合わせは「1位通過したほうが不利」という状況となったのである(スウェーデンはこの日ニューカッスルでの試合だったので、移動のハンデはそれほどないが)。
(グループリーグおよび決勝トーナメントの組み合わせの表をよくみると、今回はどうしても開催国イギリスに有利になる配置になっており、グループFは少々難しい配置をあてがわれていることが分かる。グループFを1位で通過しても2位で通過しても、他のグループの2位と試合をするという配置になっている。)
とくに後藤健生氏のコラムなどを読んでなるほどと思ったのは、(スウェーデンはフランスと当たりたくなかった、という前提で)スウェーデンが前半早々に2点をあげた状態で、それを受けて日本も普通に得点をあげていいシチュエーションに追い込んで、そのあとに「うまくやって」カナダと2-2で引き分けて日本をわざと1位通過させるというプランがスウェーデンにあったのではないか、という説だ。
そしてその「ワナ」にかからずに状況をずっと逐一フォローしながら、あくまでも引き分けに持って行き、かつ主力を温存させることができた佐々木監督の采配は賞賛されるべきだという意見だ。
私は、この説はめっぽう有力じゃないかという気がしている。
それを思うと、今回のなでしこの試合は、サッカーの国際大会におけるグループステージ特有の「駆け引き」として、とても興味深い事例のひとつではないかと思う。
(そして改めて思うと、グループリーグ3戦目の相手が南アフリカだったことも非常にラッキーであった)
この調子でいけば、なでしこはブラジル、スウェーデン(たぶん)、決勝で(きっと)アメリカと当たることが予想される。理想的なパターンだ。
しかし当然のごとく、「わざと2位狙い」については、批判もでてくる。
たとえばこういう意見。
「私は、南アフリカ戦もしっかりと勝ち、1位だろうと2位だろうと、そして移動があろうとなかろうと、金メダルに向かってまっすぐに突き進んでいってほしかった。」
「そして私自身は、たとえ準々決勝で勝とうと、そしてたとえ金メダルを取ろうと、この南アフリカ戦でのなでしこジャパンの試合をずっと残念に思い続けるだろう。」
「眠い目をこすりながらテレビの前で試合を見守った少年少女たちを含めた日本中の人々を落胆させた罪は、けっして小さくはない。」
これについての私なりの意見としては、まずもって、「 ま だ 誰 も 落 胆 な ん か し て へ ん し ! !」だ(笑)。
そもそもの最優先事項は何だ? 最大の目標は決勝戦に進んで金メダルを狙うことである。しかもグループリーグから決勝トーナメントにいたるすべてのプロセスを含めて「サッカーの試合」なのである。ちょっと分かりにくいかもしれないが、サッカーの国際大会というのは、芝生の上での90分間のサッカーを行って、それの繰り返しで勝ち上がること「だけ」ではないはずだ。関係者でもない私がこんなことを偉そうに言うのもあれだが、試合と試合の合間、練習や食事やその他の時間、コンディショニング調整を含めた、ありとあらゆる時間と空間をトータルでマネージメントしていきながら続けていく短期集中決戦の闘い、それがワールドカップでありオリンピックだったりするのだ(ケガ明けにも関わらず丸山を今回のメンバーに選出した理由のひとつが『オフ・ザ・ピッチ(つまりグラウンドを離れた時間)での働きもすごいから』と佐々木監督が冗談まじりに明言していたが、やはりこれもそういう側面を重視しているからに他ならない)。
「移動があろうとなかろうと、全力を尽くせ」というのは、その気持ちはよーく分かるけれども、でも実際にサッカーの試合に例えて考えてみても、「90分間走り続けてハイプレスをかけろ」なんていう監督がいるだろうか? そしてそんなことをパーフェクトに実行できるサッカーチームが存在するか? そういうことと同じことを要求しているのである。つまりは「非現実的」なのだ。
なのでこの試合を通じて、国際大会におけるトーナメント特有の「駆け引き」を学んだという意味で、この試合は「サッカーリテラシー」の国民的向上に寄与した貴重な試合として語り継がれて欲しいと思う。
とくに、「眠い目をこすりながらこの試合を見守った少年少女たち」には、これぞサッカーの国際大会の機微なんだよということを示せたのはむしろプラスだったのだと信じたい。
(ていうか、まだこの試合が22:45キックオフだったからよかったものの! 3:45キックオフの試合だったら、より一層しんどかったわけで)
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コメント
南アフリカ戦は見ていて退屈な試合でしたが、決勝トーナメントを見越して、なでしこはこんな試合ができるようになったのかと感心していました。実際の試合以外のことも、試合運びのうちという、F1とかパリダカとかでは当たり前のことが、認識されるようになる記念すべき試合になればと思います。
投稿: M.フィオリオ | 2012年8月 2日 05:42
M・フィオリオ>モータースポーツをみていると、そういう視点に自然になっちゃうのかもしれませんね。自分にとってはそのあたりが「スポーツをみる原点」だったりしますんで(笑)
投稿: HOWE | 2012年8月 2日 21:04