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2018年5月

2018年5月16日

横断幕と暮らす日々(その9)小さい傘のなかで、静かな時間が流れた日

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 ゴールデンウィークは2連戦。5月3日は愛媛FCレディースとの試合で、またしても雨予報のなか、今年2度目の鴨川へ。しかし幸い到着時には雨も止んでくれた。とりあえず自分は晴れ男なんだと信じて生きていたい。

 京都から最短で到着しても、どうしても横断幕掲出の開始時間よりあとに到着することとなり、一仕事終えたオルカのサポーターの方々に今回もフジタノゾミ横断幕の掲出を手伝っていただく。そして聞けば仙台のファンの人からの藤田のぞみ横断幕も登場していて、これで3枚の藤田幕が並ぶことになった。仙台の方の幕には英語で「絶対的な自信と謙虚な姿勢」の座右の銘が書かれていて、私のは(特に深い意味はなく)ドイツ語版なので、被らなくてよかった。なんとなく。

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 この日の試合の入りかたはよかったのである。開始早々、藤田のぞみから放たれた前線へのロングフィードにハンナ・ディアスが抜け出して、力強く相手DFを抑えながらキーパーと1対1に持ち込んで上手にゴールを決めた。藤田のぞみの好判断と高い技術、そしてハンナの強さと巧さがかみあったナイスゴールで、この勢いで押し込んでいったのだが、強い風の影響もあって難しいシーンが多く、相手のセットプレーで追いつかれる。後半になるにつれ自らで流れを相手に引き渡したような感じになり、ミスからの安い失点もあったが、なんとかコーナーキックからの流れで押し返して2ー2ドローに持ち込んだという内容。前半の良かった時間帯に追加点をあげられなかったのが悔やまれる。

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 リーグ戦未勝利のまま出待ちを続けると、どういう声かけが適切なのか本当に悩む。

 終わったあと、時間があったので安房鴨川駅まで歩いてみようと思ったが、コアサポのEさんが車から声をかけてくださり、お言葉に甘えて駅まで送ってもらう。Eさんはクラブ創設時に、まったくの部外者として応援に関わった最初の数名の一人とのことで、それまでサッカーの応援をしたこともなかったため、ほかの人からいろいろと教えてもらいながら身につけていったという、とても謙虚でフレンドリーな方である。

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 鴨川での試合を経て、私は連休を思い切り堪能したあと、連休最終日は伊賀FCくノ一との試合のため伊賀上野駅に。もはや鴨川と比べるとあまりに近所で申し訳ないぐらいだ。

 くノ一の試合でちょっと楽しみにしているのは、「くノんちゃん」というマスコットに会えることだ。そのミステリアスな美貌に加え、試合前のダンスなどで発揮される恐ろしいほどの身体能力の高さには、さすが忍者だとうならせるものがあり、私は世界のサッカーシーンを見渡しても、スペインのRCDエスパニョールが誇る「ペリコ」の次ぐらいに好きなマスコットだと推したいぐらいである。
 最後に私がこの伊賀のスタジアムに来たときは、藤田のぞみが浦和レッズにいた時代であり、数年ぶりのこととなる。そして試合前にスタジアムグルメを味わうべくブースをウロウロしていた私は、とんでもない光景に遭遇した。

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「・・・!?」

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 たまたまこの日、交通安全キャンペーンで伊賀警察署がブースを出していたのだが、くノんちゃんは警察関係者に向かって刀を振り回し、「突き」まで繰り返していたのである! 実際はこの刀には穴が開いていて、サヤに納められている石鹸水の効果で、刀を抜いて振り回すとシャボン玉があたり一面に生み出されるのであった。

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 このときのくノんちゃんはハタで見ていても本当に警察官を殺傷しかねない緊張感をただよわせる俊敏な動きを見せ、表情が読めないだけに、なおさら「マジで狂気な感じ」でもあった。

 くノんちゃん【の中の人】はもしかして警察官に何らかの恨みでもあるのだろうかと心配になるほどだった。

「なんてパンクなんだ、くノんちゃん!」

と、私は改めて惚れ直した次第である。

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 ▲そんなパンクなくノんちゃんに感化され、直後に物販で買ったキャンディー。そしてこれがどことなくソワソワさせる理由をしばらく考えたら、このイラストでは素顔を見せているのな。

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 この日、横断幕を掲げさせてもらった流れで、私はゴール裏アウェイ応援団に混じらせてもらって、初めて声出しの応援をした。日差しがきつく(それはメインスタンドでも同様だったが)、お互い熱中症に気をつけあいながら、この数試合で身体になじんできたオルカ鴨川のいろいろな応援歌やチャントをコールさせてもらう。
 コールやチャントをやるとなると、試合展開の全体像を追いかけることに注力することとなり、いつものように藤田のぞみを軸に据えてピッチの状況を観るという見方ではなくなってくるのも、やってみて初めて感じ得ることであった。それはそれで、ボールや人の動きのなかで、どこまで彼女が存在感を発揮できるのか、それを見極めていくことでもある。

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 しかし・・・この試合でもなかなかオルカはチャンスを作れず、0ー1で敗れる。途中出場のチリ代表、マリアがオフサイドぎりぎりのところを狙った「幻の2ゴール」があったり、GK有馬のPKストップなどもあったが、とにかく今欲しいのは結果、である。これで5戦を終え2分け3敗。出口は見えない、でも出待ちは行う。藤田のぞみを前にしたとき、とっさに出た言葉は「続けていこう」である。彼女個人は的確なプレーや良いペース配分での戦い方ができていると思うので、この状態を続けていって欲しい。ただ、新加入選手でスタメンを取っている選手たちにとっては、この長いトンネル状況は非常にしんどいであろう。


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▲試合終了直後、アウェイサポーターのところにまで挨拶に来てくれて、シャボン玉のパフォーマンスまで披露してくれたくノんちゃんに和む。えらいよ。

 先日車で送ってくださったEさんと選手バスを見送ったあと、この日はJR伊賀上野まで一緒に歩き、Eさんは奈良から夜行バスを取ったとのことで、そのまま途中まで「ぶらり鉄道の旅」をご一緒する。Eさんは鉄道好き、旅好き、オルカ好き、そしてお酒好きなようで、コンビニで買い込んだお酒を列車内でも美味しそうに飲み続けて、いろいろな話を楽しく聞かせていただく。そのなかでふと、「(オルカにいる)選手たちには、良い足跡を残していってほしいんだよ」ということを言っていたのがすごくグッときた。ずっとチームを支えているからこそ到達しうる感情というものだ。選手は来て去るものとして捉えると、私のような選手サポーターもまたしかりなのであるが、そうしてまた動き続けることで何らかのつながりができては濃いものになっていくような感じがあり、今自分はそれを実感しつつある。

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5月13日は再び鴨川でバニーズ京都戦。この日もしだいに大雨になる予報。

毎回最短で到着しても、横断幕掲出時間がすでに始まっていて、いつも現場では私が来たときにはすべての横断幕が手際よく張られている。一仕事終えたEさんからは「場所、空けておいたよ!」とありがたい声をかけていただく。カタカナ表記のちょっと風変わりなフジタノゾミ幕がこうして受け入れられて、素直にうれしい。

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 ゴール裏芝生に行き、のんちゃんのバッジを世田谷戦で譲ってくれたTさんが横断幕の設置を手伝ってくれた。その作業の途中、Tさんから「グッズ売場で写真が売られているの知ってます?」と教えてもらう。気になったのでそのあとでオルカのグッズ売場のテントをのぞくと、オフィシャルカメラマンが撮影した試合前の選手集合写真が試合ごとに売られていた。勝てない試合が続いていて、緊張感が拭えない気分で鴨川に来たが、この写真のなかで見せているメンバーの表情はどれも試合前の高揚した、晴れやかな表情を浮かべていて、現地で遠くから眺めているとなかなか気づかない微細なニュアンスを感じ取れる。

 「こういうのは良いねぇ」と思いながら売場の写真を眺めていたら、とつぜん売場の女性スタッフから「藤田さんのファンですよね?」と言われ、とってもうろたえる(笑)。まだ8番のユニフォームを着ていない状態でそう言われたので、なんで分かったんですか!?と尋ねると、以前の試合会場で見かけたので、と言われる(しかも8番ユニを着たり着なかったりする日があったにも関わらず、である)。鴨川陸上競技場の3試合目でまさかグッズ売場の人にまで認識されるとは。 

 ホームゲームのチケットには毎試合2人の選手の姿が印刷されていて、この日はGK國香想子と藤田のぞみだった。そしてその2名の選手がマッチデイプログラムでフューチャーされていた。そこに書かれていた「浦和レッズLを退団し、もうサッカーはする気にならなかった。」という文章で始まる藤田のぞみのコメントは、その後の苦悩、そして周囲の人々のサポートのおかげで再び勇気を出してなでしこリーグに復帰するにあたって、「残された選手人生をオルカに尽くしたいと決意した」という想いが書かれており、いままで藤田のぞみに関して発表されたあらゆるテキストのなかでもかなり重厚なものになっていて、ちょっと驚いたぐらいである。そして改めて自分がいる場所、ここでなにをするべきなのかを問いかけられている気がしていて、なおさらに、昨年の湯郷ベルでの復帰に際してすぐに応援に駆けつけられなかった自分の「意気地のなさ」にも直面するわけである。

 そんなわけで、この日のマッチデイプログラムは私にとって非常に重要なアイテムとなった。

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 この日もコール応援の人々の後ろにつかせてもらい、いつもサポーターさんがスタジアムの隅に段ボールに入れて置いてくれている「貸しメガホン」を借りて応援した(遠方からなので荷物を厳選して持って行っている私にとっては本当に非常にありがたいシステム)。

 オルカはついにハンナとマリアの北米・南米外国人ツートップがスタメンとなり、ファーストディフェンスをきっちりこなし、全体的にプレスがうまく効いていた。外国人サッカー選手が2人してボールを奪いに襲いかかっていくシステムはこの国のリーグでもわりと珍しいほうだと思うのだが、その勢いたるや並の選手でなくても焦ってしまうはずである。そうして相手のミスを誘い、勢いを抑えにかかったのでたくさんのボールを高い位置で奪うことができた。やはり多少無理をかけてでも前からのチェイスをさぼらずにやり続けると、かなり優位に試合が進められる。

 早いうちに挙げた先制点は、藤田のぞみのヘディングパスが起点になって、ハンナが受けてシュートを打ち、キーパーがこぼしたところをマリアが詰めて決めた。
 そこからいい波に乗って、4ー0の大勝。何よりゼロで抑えられたことが大きい。
 つまりはオルカ鴨川の今シーズン、個人的に現地で観た試合のなかでの待望の「初勝利」を挙げ、勝ったときにサポーターが歌うチャントが、当然ながら聞き慣れないものであり、その新鮮さも含めて、安心感があった。これで流れが変わってくれれば・・・

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 そして出待ちでは笑顔でのんちゃんを迎えられたことも、勝ったことと同じぐらいうれしかった。

 試合終了直後に雨が本降りになり、のんちゃんに差し入れを渡した後、ほかのサポーターが彼女を呼び止めて、手渡すものを準備する間、すこし手間取っていたようで、そのときのんちゃんは雨の中で「待ち」の状態になった。
 すると手を頭に乗せたままの彼女は私に「すいませんー」と言ってきて、それは自分の傘に入れてほしいという意味だった。

 なので形の上では一瞬だけ、ほんの一瞬、いや、こういう状況だと正確な時間感覚は狂ってしまうようで、実際はけっこう長い時間だったかもしれないが・・・のんちゃんと相合い傘になった・・・その間、なにも言えなくて、お互いずっと無言で、それはとても静かな時間だった。

 持ち歩きを優先してモンベルの小さい折りたたみ傘しか持っていなかったが、相手が小柄なので助かったと思えばいいのか。これは相合い傘をするには小さすぎるかもしれないなぁ、大きい傘を持っていなくて申し訳ない、といったことを考えていた(と記憶しているが、すべてはあいまいである)。

 緊張すると、どうでもいいことばかり考えてしまう。

 その流れで、試合前に横断幕を手伝ってくれたTさんが気を利かせてくれて、持っていたタブレットで我々の写真を撮ってくださった。感謝に堪えない(笑)

 そしてコアサポのKさんご夫妻からは、車で駅まで送りますよ、とのありがたいお申し出が。もはやすべてのコアサポさんからのご支援によって私の鴨川通いが支えられていて、本当に恐縮である。Kさんご夫妻は家族で浦和レッズのゴール裏を闘ってきた方々だそうで、オルカの選手たちにたいするその熱さの源泉を思うとさもありなん、である。「浦女」としての赤い血が流れている藤田のぞみがひきつづきKさんたちに頼りにされるようなプレーが続けばと願う。

別れ際にKさんが「オルカ鴨川が1部にあがって、レッズと闘うべく駒場に行く日を楽しみにしている」という旨のことを言ったのが、とても印象的だった。自分もまた、駒場に行きたいと思いつづけている。

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