« 2020年4月 | トップページ | 2020年8月 »

2020年6月

2020年6月27日

『フットボール批評』28号「無観客劇場への覚悟はあるか」

今日からJリーグが再開される。なんとかここまで、こぎつけた。

そんななか『フットボール批評』最新の28号、特集は「無観客劇場への覚悟はあるか」。今回も非常に読み応えがあったので、いくつかコメント。

 まず冒頭のJリーグ村井チェアマンのインタビュー。コロナ禍で個人的にも毎日の仕事生活に疲弊しつつある状況で読んでいるからか、この記事において村井チェアマンの発言に触れると、素直に「この人、すごい有能!!」と平伏したくなった。思考と決断と実行のスピードの早さ、そしてサッカー業界の外からやってきたがゆえに、変なところでの考慮をせず、ひたすらJリーグ理念を判断基準として動こうとしているところに我々ファンは一定の信頼感を寄せることができるわけだ。
 「新型コロナウイルスの本質的な意味は『分断』にある」という村井氏の意見は、広く社会全般に共有されてほしい問題提起ではないだろうか。

 新連載「汚点:横浜フリューゲルスは、なぜ消滅しなければならなかったのか」。これまでもサッカー産業の暗部に切り込んできた田崎健太氏による原稿なので、今後の展開がすごく楽しみ。まさに『批評』だからこそこういうテーマは正面切って掲載していく意義がある。確かに言われてみたら当時はクラブの消滅についていろいろと考えるところはあったけれども、そもそも横浜フリューゲルスというクラブの成り立ちについて思い及んだことはなかったなぁ、と。そこでこの連載では、クラブの出発点が1964年東京五輪の時期に結成されたサッカー少年団だった、というところから歴史語りが始まっていき、思わぬ人物の関わりが明らかにされ、続きが早く読みたい・・・!となる(おそらくやがては単行本化されるとは思うので期待したい)。
 そして何より、コロナ禍における経済的損失が不可避となってきたサッカー界およびスポーツ界にとって、第二のフリューゲルスを生み出さないようにするためにはどうするか、という裏のテーマも図らずも背負うことになっていくと思うので、なおさら雑誌としても大事にしていってほしい連載。

 最近の『批評』の連載ですごく楽しみになっているのが「世界サッカー狂図鑑」。さまざまな国の市井のサッカーファンをじっくりと取材し、文章とイラストで親しみやすく紹介してくれる。今回はマレーシアのジョホールバル出身のサポーターさんで、イスラム教徒としての生活様式と、サッカーを熱くサポートしていく日々がどのようにリンクしていくかが興味深い。そして今回は「番外編」として、この国で芝を作る日本人の奮闘ぶりもレポートされている。こちらも「すげぇぇー!!」となる。サッカーというスポーツの及ぶ世界の広さをあらためて実感。

 今号では、以前別冊で出た「フットボール戦術批評」のエッセンスが「ミニ版」として収録されていて、あえてサッカーが観られないなかでこういうガチな戦術論を載せてきたこと自体が面白い。そして期待以上に前のめりになる記事ばかりだった。ひとつはシメオネ監督のアトレティコがリバプールとのCL戦で見せた「ゲーゲンプレッシング2.0」といえる組織的ボール奪取の理論の話。
 もうひとつはベガルタ仙台を指揮していた渡邉前監督と岩政大樹氏の対談「ポジショナルプレー実践論」。これは指導者目線で語られたがゆえに、「いかに選手に分かってもらうか」というベクトルが、そのまま読み手である我々素人にたいする「いかに読者に分かってもらうか」という方向性に一致していくので、記事の中で岩政氏がひとりで熱く盛り上がっていくポイントと、読み手の私のほうもシンクロして「そういうことですかー!! なるほどーー!」となった出色の対談。
 ちなみに普通こういう対談形式の記事は「聞き役の合いの手」が省かれることが多い。しかしこの記事では

「岩政:はい」

「岩政:あーー」

っていう、やたら挿入される岩政氏のこの短いリアクションが誌面で再現されていると、読んでいるこちらのリズムにも同調してくるので、このスタンスはわりと悪くないと個人的には思っている。

 そしてこちらも印象に残った記事としては、元Jリーガー井筒陸也氏とサガン鳥栖・小林祐三の対談。もともと音楽活動などサッカー選手以外の顔も積極的に見せていた“パンゾー”選手だったが、その発信力ゆえにいろんな言葉を持っている選手だということが改めて分かってすごく刺激的。コロナ禍におけるJリーガーは何を考えるべきか、という井筒氏の問いかけに対して小林祐三は、

「一回、絶望したらいいんじゃないと思うけど。
そこで絶望できるというのも、一つの指針になるなと思っていて。
でも、僕は絶望できなかった」

 刺さるフレーズである。
 ほかにも「フットボールにたいして盲目的にならないようにする、ほどよい脱力感」というテーマも興味深く、「子供のときからサッカーしかやってませんでした」というのが、日本の部活動のありかたなども含めて果たしてどうなんだろうかという教育文化的な側面にも通じるものがある。 やー、小林祐三に連載記事書いてもらえないだろうか(笑)。つまり、こういう『批評』のようなメディアこそが「語れるJリーガーを見いだしていく」という機能を果たしていくのではないかと思っていて、普段だとなかなか話せないことも、『批評』のような場だったら、心の内を自分のリアルな言葉で紡いでもらえるのではないかと、そういうことを改めて期待させた号だった。

| | コメント (0)

2020年6月 7日

<続報>30%のキャパ制限で観客を入れて再開したサッカーのブルガリア・リーグの様子 → やっぱりいろいろ難しそう

先日の記事を書いた手前、実際に試合をやったらどうなったかを自分なりに追ってみた。

日本ではどこまで報じられているのか分からないのだが、ロイターの記事が各国ニュースサイトで配信されているよう。

01

 トップ画像で使われているのは、レフスキ・ソフィア×ルドゴレツの上位対決となった試合の様子。よくみるとダンボールのサポーターがいる! ということで、ツイッターで調べてみると

02_20200607114501

先日話題になったドイツのボルシアMGで実施した企画にインスパイアされたとのこと。15ユーロで写真を送ったらダンボール加工してもらえるようで、上位対決だからこそ実施する企画なのかもしれない。

03_20200607114601  

結果がこのように。リアル人間サポも、このなかで観ている状態の心境たるやいかに。

で、ロイターの記事で追加で紹介されている写真も興味深くて、

06

この写真からは「どうやってダンボールを固定しているか」の内情が少しだけ伺えるわけで、

07

座席の縁のところにテープっぽいもので固定しているようで、まぁこうするしかないよな、と。「酔っ払って試合見れていないサポ」みたいな状態が容易に発生しそうだが(笑)

あと同じ試合でのゴール裏(立ち見席)での熱いウルトラス集団とおぼしき写真もあって、

05

ラジオ体操みたいな状態だが、それなりにソーシャル・ディスタンスを意識しつつ、人数を多く見せようという意図も感じられるポーズ。

ただ、別の写真を見て気づいたのは、

04

腕を伸ばすのはいいんだが、手と手をつなぎ合わせている人がけっこういて、ウイルス感染防止の観点から言えばあまりよろしくないかと・・・。

さてロイターの記事をGoogle翻訳でかけて読んでみると、

「ソフィア:ブルガリアのリーグは、スタジアムで許可されたファンによる新しいコロナウイルスのパンデミックによるほぼ3か月の休憩の後、金曜日(6月5日)に再開しましたが、それらの多くは、スタンドの3席ごとに占有するという規則に違反しました。」

ということで、先日の記事で書いたように、客席のキャパの30%に留め、客1人につき座席2席を空けて座ってもらうことを条件としてリーグが再開されたわけだが、「やっぱり違反は多かったかぁ~」という結果に。

記事のつづき。

しかしテレビの映像では、少なくとも数十人のファンが、スローテンポの遭遇で2位のロコモティフ・プロヴディフが弾力のあるエタル・ヴェリコ・タルノヴォを2-0で破ったプロブディフの南部の都市、クラレフの前でルールを守らなかったことを示しました。

(中略)

スポーツ省は最後のホイッスルの後に発表された声明で、試合はファンが座席ルールを守って進んだと述べ、スタジアムのアナウンサーがすべての観客に距離を保つように求めたと付け加えた。

「そうだよな、テレビ映像とかで観たら一発で分かるよなぁ」ということで、気になったのでこのロコモティフ・プロヴディフというチームの公式サイトから、その日のエタル・ヴェリコ・タルノヴォとのマッチレポートを見てみた。

 09

トップ画像だと背景の座席はガラガラだし、

12

「お偉いさんゾーン」も、「30%ルール」を守っていると言えそうな状態ではあるのだけど。

でもいくつかの写真をみると、

10

11

まぁ、やっぱりこうなるよねぇ、と。

「密です!」って都知事が怒り出しそうだけど。

もし同じ条件がJリーグに適用されたとしたら、日本社会の雰囲気的には多くの客は遵守するのだろうけれど、収益の問題とか考え出すとホントに難しい。

ちなみに、このロコモティフ・プロヴディフの公式サイトの背景画像が、写真とペインティングをうまくミックスしていてアーティスティックな感じが良かった。

15

あらためて思うに、(発煙筒はともかくとしても)こういう「密で熱い空間」を世界中のスポーツの現場が再び取り戻すことのできる日をひたすら祈りたい。

| | コメント (4)

2020年6月 4日

ブルガリアのサッカーリーグは一定の条件下で観客を入れて再開とのこと

 まだあまり話題になってなさそうなので、このブログで書いておきたい。

 ブルガリアでは6月5日からサッカーリーグの1部・2部で、観客を入れた試合を行うとのことで、

(1)スタジアムのキャパシティの30%を上限とする

(2)観客は少なくとも席を2つ空けて使用する

という条件が課せられるとのこと。ちなみに6月3日時点でのブルガリア国内の新型コロナウイルス感染者は2,560名ということで、人口を調べたら約700万人で、(日本の検査数と感染者数の実態はどうにも信頼できないので比較しにくいが)わりとブルガリアの感染率って高いかもしれないが。

 ともあれ、3万人のスタジアムだと9000人を上限として実施することになる。「席を2つ空ける」という条件であれば一人の客につき座席を3席使うから、この30%という数字になるわけか、なるほど。

 こういう試合のチケットの値段というのも気になる。「価格変動制」を最近導入しているJリーグでは、もしこういう形になったらどういう値段設定になるのだろうか。というのも、どうしたってこういう事態になると、おのずと「プラチナチケット」みたいな扱いになるわけで。決して喜ばしい事態ではないが「自分はあのときあの試合を観ていた」というのはひとつのプレミアムになる。

 あと、自由席と指定席の区分けもどうなるのかというポイントも気になる。おそらく「後になって感染経路をたどれるように」といった行政指導とかで、全席が指定席になることも予想される。

 ブルガリアの話はこれ以上の情報はないのだが、やはり大声でチャントを歌うとかは制限されるのかもしれない。でも実際やってみたら、自然にみんな歌うかもしれないし、「逆に自分が率先して応援しなければモード」が発生して、キャパ30%の「プラチナチケット獲得者」であるサポーターたちは、力の限り応援しそうな予想もできる。いずれにせよ他の国ではまだ客を入れての試合は実施していないので、これはすごく各国関係者に注目されているのではないかと思う。

 

 ちなみに私が今日これを知ったのはたまたま外務省海外安全情報メールの一覧を見ていたことがきっかけなのだが、この在ブルガリア日本国大使館からのメールを読み込むと、このサッカーリーグ実施については「保健大臣令」によるものなのだが、かねてより基本的には「屋外及び屋内(スポーツ施設,クラブ等)における競技性のある大規模スポーツイベントの実施は許可されない」という方針だったので、普通に考えたらサッカーの試合だって開催できないはずなんだが、「これまでの保健大臣令を一部修正し」となって、「例外として」プロ・サッカーリーグの試合実施だけは許可されたとのこと。

うん、これって絶対・・・いろいろ恐ろしいエリアから圧力かかったんだろうなぁ、と想像できる・・・

| | コメント (2)

« 2020年4月 | トップページ | 2020年8月 »