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2005.09.28

iPodのあたらしい使い方

 日本という国は、ブートレッグ(つまりあれだ、海賊盤。)が普通に中古CD屋で売られているから、良くも悪くも探しやすい。なので、ここ10年ちかくピンク・フロイドの過去のライヴ音源をひたすら探しまくって生きている。いろんなアーティストのいろんなブートレッグが出回っている中で、私が求めているのは、限りなく範囲が狭い。なんせピンク・フロイドの、しかも最初期から1972年ごろまでのライヴ音源だけを探しているからだ。ちょうどアルバム『おせっかい』や『原子心母』の曲をメインにライヴを行っていた時期のものを中心に探している。

 たとえば、古い時代のライヴ会場の様子を(勝手に)収録したブートレッグの音源は、どれもみな音質が最低に悪い。だから人はなるべく音質の良いブートレッグを探そうとするのだけど、私の場合は、「ピンク・フロイドに限っては、音質が悪くてもいい」と思っている。
 なぜなら、音質が悪ければ悪いほど、あのピンク・フロイド独特の音空間が、またいっそう濃厚な時の中に凝縮されたような、なんともいえない味わいをかもし出すからだ。少なくとも私の耳にはそう聴こえる。古いカセットテープ独特の、ノイズまじりの音。マイクが拾う「シーーーー」とか「フーーーー」とかいうような・・・あのときの空気に触れた独特の音が・・・当時のオーディエンスの歓声や奇声を含み・・・そこで演奏される『原子心母』の、モノラルで重たい音たちが、どうしようもなく不鮮明で、かつ幻想的な輝きを放つ・・・ように聴こえる。目を閉じれば、まさに1971年・・・と、時空を超えたライヴ体験ができるのだ。

 というわけで、私は、この時期のピンク・フロイドの演奏を出来る限り聴いてみたいと思いつつ、たまに運良くブートレッグに出会うと、あれこれと思案して、これが「麻薬」としてどれだけの効力があるか(そう、間違いなくピンク・フロイドは、唯一無比の麻薬ロック音楽なのである)、といった品定めをするわけである。

 で、私の場合は音質を問わないわけなので、できれば「同じ日の同じライヴを収録した、別のブートレッグ」をつかまされることだけは避けたいのである。これはブートレッグにつきものの事態である。まったく見かけが違うCDなのだが、聴いてみるとまったく同じ日のライブであり、しいていえば音質に差があるかどうか、というのが唯一の商品価値になっている場合もある。

 しかし私は別に「コレクター」ではないから、「すべてを集めたい」という欲求はゼロに等しく、単に考古学的興味から、「できればあの頃に行われたいろんな日のライブを聴きたい。音質は悪くてもいい! むしろ悪いほうが“麻薬度”が増すから、逆に良いんだ!」というクチなので、まずもって同じ日のライヴ音源は買わないぞ、と決めている。

 ところが、近年、たまにブートレッグに出会うと、「あれ、この盤に収録されている日のライヴって、すでに持っていたっけ?」と迷いだすようになった。しかも私の場合、極端なまでに「対象とする時代」が狭いので、この時代のライヴで演奏された曲が、どの日も似たり寄ったりとならざるを得ない。なので、ライヴが行われた都市の違いや日付の違いが分からないときは、識別するときに「曲順が違うから、たぶん別の日では?」とかいう判断のみで選別するしかなく、完全にマニアな知識量を求められるようになってしまうので、なんとかせねば、と思っていた。

 で、対策として、いつも持ち歩く手帳に、過去に入手したブートレッグのライヴ日時と会場をメモしていたのだが、そんなことよりも、いっそiPodで「テキスト」が読み込めるのなら、iPodに入れてしまえ、と思い立った。
 こうして、ネットで「ピンクフロイドの過去のライヴデータ一覧」みたいなマニアックなページを探し出し、そこから一挙にコピーして、テキスト化し、すでに持っている日のライヴに印をつけておけば、いつでも外出先のレコード屋でiPodをいじりながら、過去のライヴ記録を参照することができるのである。

 そしてこれを作ったことで、思わぬところからちょっとした新鮮味も覚えた。iPodという21世紀の産物に組み込まれた液晶画面に映し出される、「冷たく輝く美しいデジタル文字」が、あのアナログな時代の古臭い、妖しげなロックバンドの生々しい軌跡を、清潔感たっぷりに整然と表示してくれるわけだ。そこに映る「ほのかな倒錯感」が面白いのであった。

 こんな感じでiPodに表示される・・・
 1972
November

3 - Rainbow Theater, London
10 - KB Hallen, Copenhagen, Denmark
11 - KB Hallen, Copenhagen, Denmark
12 - Ernst Merck Halle, Hamburg, West Germany
14 - Philips Veranstaltungshalle, Dusseldorf, West Germany
15 - Sporthalle, Boblingen, West Germany
16 - Festhalle, Frankfurt, West Germany
17 - Festhalle, Frankfurt, West Germany
22 - Salle Valliers, Marseilles, France (Roland Petit ballet)

 この、いつかどこかで、遠い昔に行われたひとつのひとつのライヴ・ステージは、テキストデータの上で正確に記録され続けて、そして今もどこかで生きている人々のかすかな記憶のなかにも、あの日の『原子心母』が鳴っているんだろう、と思う。そういう当たり前の歴史的事実を、iPodのクールな液晶画面を通して確認するときに・・・そう、それこそピンク・フロイドの初期の演奏がそうであったように、時代と時代、空間と空間を隔てる絶対的な何かを溶かしていくような、そういう不思議な感覚をわずかながら感じたりもするのであった。
 そしてまた、そういう感覚を積み重ねながら、自分が本当に触れ、味わい、考えてみたい言葉や音や世界っていうのが、また少しずつクリアになって近づいてくるような予感を抱きつつ、毎日正気を保って生きているんだろう、とも思ってみる。(ところで、ピエール・ベヌという芸術家のいう“正気税”という考え方が、最近マイブームなんで、またいつか書きます)

ということで、「同じ日のライヴ音源を買いたくない、ブートレッグ探求者のためのiPodの新たな利用方法」がここにあるんじゃないかと自負している。

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Comments

ああー、ipod、ナノちゃんがほしい・・・。黒のん。

i dont read anything but HOWE!

Posted by: hanachirusato | 2005.09.29 15:54

「ハウのほかは何も読んでいない」・・・?(笑)
anything but が二つ意味あるんだよね。

HOWE is nothing but waste..

Posted by: タテーシ | 2005.09.29 21:25

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