仮歩道マニア
デイリーポータルZとかがそのうち記事にするかもしれないので、先に書いておこう。
私は「仮歩道」が好きだ。
そう、工事中の、あのどうしようもない喧騒のなかに生まれる、ひとときの臨時の道。
「仮」なので、いつかは消えて存在しなくなる道。
そういう意味では、街の落書き/グラフィティにも通じるものがある。つまり「いま、ここにしかなくて、いつかは消えてしまうもの」だ。そして、誰にも記憶されず、その存在意義が省みられることがない。
なので、いつしか自分は仮歩道があると、じっくり味わいながら通るようになっていた。
「もう次に来るときには、この道は存在しないのだ」と思うと、ほら、どうだろう。ちょっと仮歩道が愛しく感じられないだろうか。
「自分は仮歩道が好きだ」と認識したきっかけは、去年ぐらいに姉の家の近くにあった、かなり大規模な仮歩道の存在だ。道路工事に伴って、長いラインをひたすら赤いコーンが導いてくれた、あの仮歩道を通過するのが楽しみだった。行けども行けども、赤いコーンとポールがひたすら続く、夢のような奇跡の道だった。かなり長い期間設定されていたので、いっそこのまま永遠に「仮」であってほしい、と本末転倒ぎみな自分を抑えるのに必死だった。
さて仮歩道を楽しむうえでやっかいなのは、先述の通りそこは恒常的な施設ではないため、「今通っておかないと、来週には存在しない可能性が高い」という切迫感ゆえに、なかなか他人にオススメすることができないのである。薦められて行ってみたら、いつの間にか仮歩道はなくなっていて、すっかり新調されたいまいましいピカピカの道路しかないという状態になりやすい。なので仮歩道の楽しさを人と共有することは非常に難しいのである。
「別にオススメされても困る」と思う人も多いだろうけど。
どうかついてきてほしい。
とくに仮歩道を楽しむうえでは、夜が味わい深い。
投光機の乱立。たとえ工事作業がすでに終わったあとでも、この無人の現場を照らし続ける投光機の存在が、非日常性を演出している。それはまた、現場に設定された仮歩道を歩く我々にもいつも以上の慎重さでもって通行をするように促す。夜はなおさら、その緊張感が高まる。これぞ「ぷち・スリリング」だ。
そして個人的に「投光機」をみていつも思い出すのは、母校の高校の生徒会室に保管されていた赤い投光機であり、そこから毎年3学期にやっていた「餅つきパーティー」のことを連想する。あの無機質な光のなかを通るとき、いつでも私は18歳の、あの冬の気分を追憶するのである。3年生のときの餅つきは1996年2月2日だったと、日付まで覚えている。その日に大学の合格通知を受け取ったからだ。嬉しくて、その勢いでたくさん薪を割った。
「工事中につき仮歩道にご協力願います」という看板の表記も、またステキだ。我々は仮歩道を歩くことで工事に協力することになるのだ。そこを通るしか選択肢がないだろう、というツッコミはなしだ。
そして夜の仮歩道を彩るイルミネーション。これが夜の仮歩道の醍醐味である。
『ダイ・ハード2』の空港のラストシーンのように、この光を目印にして暗闇のなかを安全なルートで進行することができるのである。そしてまたこの光に吸い寄せられる仮歩道マニアは、まるでイカ釣り漁船のそれと似ている。人間もイカも、暗闇のなかで整列したまばゆいばかりの光をみると、体が反応するのであろう。
また、手前にわざわざ別の電光板が「←」と示してくれている。これはかなり親切な処置を施している事例である。作業員の方々の一般市民を思いやる気持ちに感謝が絶えない。
というわけで、これからも私は仮歩道を歩くときにはなるべくそのディテールに注目しながら通過しようと思う。
ぜひ関西近郊で、味のある仮歩道を見つけた方はご一報いただきたい。
***
そんなこんなで、今年もあと一日。みなさまよいお年を。
(でもブログの更新はたぶんまた明日もあります)■■■■
« 模造紙 | Main | タルコフスキーごっこ »
Comments
ひさしぶりに心が洗われるような文章に出会いました。
TSUTAYAでダイ・ハード2を探しています。
Posted by: すざけん | 2007.12.30 23:32
すざけん>サンキュウ。「ダイ・ハード」ではパート2が一番好きなんです。
Posted by: HOWE | 2007.12.31 00:23
あの~、うちの近所に仮歩道なんてあったっけ??覚えてないんですけど。
まぁ、来年もヨロシク!
Posted by: tomo | 2007.12.31 09:59
tomo>ええ、さがせばいろいろとあるもんです・・来年もよろしくー
Posted by: HOWE | 2007.12.31 23:48
ぜひ記事をまとめてデイリーポータルZのコネタ道場に送ってほしいですね。
ちなみに私は仮歩道の警備の人が好きです。
申し訳ございませんと言うような顔を警備の人がしている横を、頭を下げて通る時に
「ヘンな道通らせてごめんなさいね」
「いえいえ大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
というような会話が私の頭の中で勝手にされています。
Posted by: num | 2008.01.04 17:09
num>でた、得意の「ひとりインナー小芝居」(笑)警備の人がつく仮歩道は、豪華な気分になりますよね。「そこまで危険な仮歩道なのか!?」とドキドキしまする。
Posted by: HOWE | 2008.01.04 22:10