追憶の耳栓
なにげない話だけど。
8年前にはじめてロンドンを旅したときのことだ。
イギリスには「AZ地図」というすばらしい地図があり、これがあれば基本的にロンドンで道に迷うことはなかった。すべての通りに名前が付けられているというステキな慣習を活かし、どこにいようともAZ地図の索引をひけば、たいがいの現在位置は把握できるのである。カーナビができるずっと前からイギリス人はこんなものを使っていたのか、と驚くばかりであった。
ただし、あの旅で一度だけ、人に道を尋ねたことがある。
ロンドンの地下鉄でいうと最北端、バーネットという小さい街にいったときのことだ。ここに弱小サッカークラブ、バーネットFCというチームがあることがきっかけで訪れていたのであった。
そのとき、チームのクラブショップがこのへんにないかどうかを人に尋ねようと思ったのだ。
あまり通行人もいなかったので、人を選ばずに、最初に向こうからやってきた高校生か大学生ぐらいの男の子に話しかけてみた。
するとその男の子は、耳からヘッドフォンステレオのイヤホンをはずして私の問いかけに耳を傾ける・・・・と思ったのだが、その彼が外したのは、イヤホンではなく単なる耳栓だった。
何事も無かったようにその男の子はバーネットのクラブショップの方向を教えてくれた。
今でも私は、歩道を歩いていたりするときによく彼のことを思い出す。
「なぜ彼は耳栓をして歩いていたのか」と。
何かに集中したかったのだろうか。
ていうか、そんなことして歩いていたら危険ではないか、むしろ。
そして私が唯一ロンドンで道を尋ねた人が、よりによって耳栓をして歩いていた人だったというのも、ちょっとしたネタっぽさをかもし出している。
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