Number『あの人のノートが見たい』特集が秀逸
今売っている『Number』736号、特集が「あの人のノートが見たい」。
これは私が今まで読んだ『Number』のなかでも最高に面白かった。
あまりに面白くて、帰りの電車で読んでいたら、12年ぶりぐらいに「降りる駅を乗り過ごす」ということをやらかしてしまったほどだ。
スポーツ雑誌だけど、この号についてはスポーツとか関係なく、すべての人にオススメできる濃い内容だ。
と同時に、こういう特集記事は『Number』のような雑誌でないと作れない。
表紙にもなっているサッカーの中村俊輔は「サッカーノート」をつけていることで有名であるが、じつは同じ文藝春秋社から9月に『夢をかなえるサッカーノート』として単行本が出たので、その宣伝的な意味あいも込められている特集でもある。(この本もまだ未読なのだが、そのうちまた感想を書くと思う)
しかし、この号がすごいのは、俊輔だけでなく、多彩なジャンルのアスリートや指導者による直筆の「ノート」について記事が組まれており、さらにノートの一部も写真で公開されている。よくぞ公開する気になったなと思えるものばかりで、どの記事も非常に興味深いのである。
野球では、あの野村監督による「ノムラの考え」というマル秘指南書の存在はよく知られていたが、野村監督のもとで育った選手達がその後思い思いのやりかたで自分なりにノートへの記録を続けている様は興味深い。
また巨人の投手、グライシンガーが試合中につけている、各対戦相手への配球メモを記したノートも生々しい。もちろんノートに頼らなくても正しいフォームを心がけて投げたら抑えられるのだが、ここぞというときにノートに記録したデータを思い出して、それがいい結果につながることがあると彼は言う。
走り幅跳びの井村久美子(イケクミ)は、練習中に書いている殴り書きのノートの様子と、そしてノートの反対側のページに書いている「料理のレシピやメモ」のかわいらしい筆記の対比が、アスリートとして自己研鑽に励む人の生活感覚を示しているようで、ある種の迫力がある。
高校野球の沖縄尚学高校の若い監督と部員たちとのノートのやりとりは、そのまま映画「フリーダム・ライターズ」に通じるものがある。そして監督は、「野球だけじゃだめ。日常のなかでちょっとの変化を発見する感性を養い、それが豊かな人生にも野球にもつながってくるはず」と語っているのが響く。
そして1928年のアムステルダム五輪の三段跳びで、日本人初の五輪金メダルを獲得した織田幹雄のノートについての記事は、圧巻の一言。今のような情報社会になる前に世界を相手に闘った人が、研究熱心な「教養の人」としてあの手この手を使って海外からの情報などを集め記録し、自らを律し、かつ策を練っていく苦闘の一端が、英語まじりの几帳面なノートの筆跡から伝わってくる。
かと思えば、『東大合格生のノートはかならず美しい』というベストセラー本を受け、「東大運動部のノートはかならず美しいか?」という記事もあったり。その記事タイトルの時点で秀逸。や、でも実際にみんな几帳面なノートをつけていたりする。
普段あまりにも物忘れがひどくてメモ魔になっている自分を恥ずかしく思うときがあるが、これを読んでいるうちに、「いやいやいや、そうじゃないんだ」と勇気づけられてくる。野村監督も「ノートに書け。書かないと忘れるぞ」といつも選手に言っているそうだ。そして現役時代も「毎晩試合が終わってからメモを書きました。じゃないと、覚えませんから」とのこと。だったら僕なんかはもっと書かないといけないよなぁ、という気分になる。
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Comments
さっそく購入しました
ゆっくりと読みます。
一方でタテーシ氏の上記のコメントが
秀逸すぎて、これだけでも読んだ気になり
自分を律することができそうになるのが
素晴らしいです
Posted by: Mikihiko | 2009.09.09 13:01
Mikihiko>ありがとうございます。気合を入れて書いたので、そういうのが伝わって嬉しいです。実際に雑誌も手にされたとのことで、内容が何らかの刺激になりますように。
Posted by: HOWE | 2009.09.09 23:43