カレーの味
私は1996年に新設された大学の一期生として入学した。その大学はすでに何十年もの歴史があった短期大学のキャンパスのなかに作られた大学だった。
その当時、学生食堂は短大の古い建物のなかにあって、その建物は秋学期ぐらいに取り壊され、1年後にあたらしい食堂の建物がつくられることとなった。
なので、その旧式の学生食堂で何かを食べた経験は、一回生の春学期の半年間だけだった。
そこでひとつだけ覚えているのは、「カレーがやたら美味しかった」ということだ。
その1年後にできた新しい食堂では、別の業者さんが入ったため、カレーの味が「いかにもレトルトっぽい感じ」になり、心底がっかりした。
「一回生の最初の頃に食べた、あの古い学生食堂のカレーはすごい美味しかったよな?」といっても、その記憶を共有できる相手は非常に限られている。1996年の春から秋までの、まさに刹那の思い出。もはや遠い過去であり、自分としても「果たして本当にあのカレーは美味しかったんだろうか?」と自信をなくしてしまいそうだ。(こうして自分は、あの頃の記憶をたまに掘り起こしては、「しかしそれがいったい何だったんだ」となって、ことごとく自信を失っていきそうな気分になることがある。)
ところが、
今日はとある行事により、古くから短大に関わっている方とお話をする機会があったのだが、
「あの短大時代の古い食堂のカレーは、毎朝おばちゃんたちが手作りで煮込んでいた」
という衝撃的な証言を得ることができたのである。
「そりゃあ、美味しいはずだわ」と思った。
すっかり腑に落ちた。
なんか『美味しんぼ』のマンガみたいな話だが。
あの古くて広い、ちょっと暗めの食堂で、スタッフのおばちゃんたちはカレーを手作りで仕込んでいた・・・そういうふうに記憶は新しく更新されていくのである。
ちなみに、その食堂が取り壊されることが決まって、閉鎖された食堂を一番最後に「利用」したのは、私と友人たちと短大の華道部のみなさんである。利用といっても、使い道は「学園祭の出し物として、そこにお化け屋敷を作った(お化け屋敷をゴールすると、そこではじめて華道部の展示作品が見学できるという、いま思うとプログレッシヴな展開の出し物だ)」という用途だったんだが・・・取り壊しが決まっていたので、好き放題に食堂を改造することができたのだった・・・いずれにせよ、あの食堂スペースの最後の最後の歴史に自分が関与したこともまた、大事な思い出である。その件について語るとさらに長くなるので、またいつか触れたい。
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Comments
昔の食堂で覚えてるメニューは、「プーレソテーのクラッポーゲン」です。
若鶏のなんかソテーみたいな感じだったのですが、料理名の不可解さが印象深く、いまだに覚えています。
Posted by: ナセルノフ | 2010.01.08 00:41
ちなみに閉鎖後にあの食堂で鶏まるごと一匹をずんどう鍋で煮込んでサムゲタンを作って、チヂミと一緒に食べたのが思い出です。
Posted by: りえぞ~ | 2010.01.08 01:12
関係者としては
その件について長く触れてみて欲しいと思ったり。
昨夜ちょうど昔の写真を見てました…。
Posted by: MSK | 2010.01.08 01:20
ナセルノフ>そんなアクロバットな名前の料理が(笑)。それで名前を覚えている、っていうのもすごいです。
りえぞー>おおお、やはりそういう楽しい思い出を隠し持っていましたか。サムゲタンに挑戦するあたりが、なんとも。
MSK>ちょうどあなたもあの過去を振り返っていたのかよ(笑)
Posted by: HOWE | 2010.01.08 21:08