笑顔の円陣をみて、泣いた
奇跡のような延長戦が終わり、
PK戦にのぞむ、そのベンチ前で
日本代表は、佐々木監督も選手も、
笑顔で円陣を組んだ。
それを見たとき、なぜだか急に
涙が出て止まらなかった。
(西田敏行ばりに)
これからPK戦がはじまるってのに、テレビで観ている側が泣いてどうする。
・・・となったのだが、いま冷静にふりかえると、
あの状況下で、笑顔でいられるというチームづくりは、
「信頼感」に支えられていたということの証明ではないかと思う。
「笑顔」っていうのは、すごい。
笑いのチカラは偉大だ。
もちろん、2度も追いつかれたアメリカにしてみたら、
あの場では笑えるような心境ではなく、
「どうしてですか神様!?」
といった表情だった。
この状況では気持ちを立て直すのは難しいはず。ワールドカップのファイナルだし。
そうして日本は「笑う門には福来たる」となった。
たしかにPK戦では負ける気がしなかった。
こうして日本サッカーが永遠に誇るべき伝説の試合となった。
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さて冷静な気持ちで試合を振り返ると、
プレスはかからないわ、ディフェンスラインの統制もあまり冴えないわ、
斜めのサイドチェンジからさんざん崩されてピンチが続出するわ、
澤が異様にパスカットされたわで、正直きびしい試合内容ではあった。
前の試合でも見られた采配だが、(丸山→岩渕で)交代選手を途中で替えるのであれば、いっそ早い段階で岩渕を先に投入しておいて前線でガンガン走らせてから丸山を入れたほうがもっと相手DFはイヤだったかもしれない(ドイツ戦で劇的ゴールを決めた勝負強いフォワードであることは相手も分かっていただろうし)。そしてそのプロセスのなかで短い時間でいいからリスクを負って、川澄を含めて3トップ気味にして相手のマークの受け渡しに混乱を起こすように仕向けて、その流れのなかで丸山を投入したらさらにDF陣に揺さぶりを起こすことができたのかもしれない(同時にFWを2人入れてしまうと、そういう駆け引きがあまり期待できないので、ちょっともったいない気がした)。
毎試合詳細な採点と分析がウリの『エルゴラッソ』紙が誰をこの試合のMVPに選ぶかは興味深い点で、当然ながら甲乙をつけにくいが、1ゴール1アシストの宮間がすばらしいと思ったのは同点弾を決めたあとに、喜び騒ぐのではなく、すぐにボールを取りに行ってセンターサークルに戻そうと走り出したことだ。あの状況下でその姿勢を忘れなかったのは、ただひたすら立派だと思う(あのマンチェスター・ユナイテッドでさえ、状況によってはそういうことを忘れてキチッとできないのである)。ああいう何気ないプレーが「不屈の精神の凄み」をジワジワと試合の流れの中で醸成していくと思う。なので私としては宮間をこの試合のMVPにしたい。
そして結果論で言えば、グループリーグでイングランドに負けたのはよかったよな、と。つくづく。
おかげで2位通過となりアメリカと反対の山に回り、超アウェイでドイツを破ったことで、地元客もその後は日本を応援してくれるムードになり、さらに準決勝と決勝が同じ会場で移動がなかったという面もラッキーであった。
こうして、ひとつの伝説を築いたなでしこジャパンだが、この試合を観てサッカーをやろうと思ってくれる女の子が増えることが、なによりの戦果だろう。
澤穂希が掲げて、選手みんなの手が伸びたあのトロフィーは、「スイッチ」なのである。次の時代へ続くスイッチだ。カチン、とスイッチ・オンしたのだ。サッカーは終わらない。そして、生きることをあきらめてはいけない。そうして僕らは日々の生活を続けていくのだ。
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