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2012.11.13

DIY精神によるこれからの産業革命を論じた好著『MAKERS メイカーズ:21世紀の産業革命が始まる』

『ロングテール』とか『フリー』とか、さすがに『WIRED』の編集長、「うすうす感じているけどよくわからないモヤモヤしていること」を、毎度うまくまとめて、しっかり読ませて、そしてちょっとワクワクさせてくれる。

この本で言われていることの本質を分かりやすく示している事例として、第11章にでてくる「レゴのロングテール」があげられると思う。

レゴ社では、自らの製品において「20世紀以降の武器類は製品化しない」というルールがあるそうな。企業イメージ的に大切なルールなのだが、しかしそのせいで、リアルな武器のおもちゃをほしがる年頃になると、子どもはレゴで遊ばなくなるという側面がある。

そこである父親が、「なければ作ればいい」というDIY精神を発揮して、レゴ社が正規には作らない武器・兵器のパーツをレゴにあうように自分で作ってみた。それがウケて、結局それ専門の製造会社を立ち上げたのである。自宅のパソコンで図面をひき、そしてウェブを駆使すれば、成形や金型などを外注して製造することができるわけだ。
(ちなみにレゴにとっても、この会社が勝手に作った武器パーツのことを容認し、むしろ喜んでくれているぐらいで、なぜならそのおかげでレゴで遊び続けてヘビーユーザーになる子どもが増えるからだ。こういうスタンスを取れるレゴ社のセンスも光るものがある)

これがこの本で言われていることのキモだ。「DIY文化がウェブ文化に出会った先に起こる、新しい産業革命」ということだ。

「二つの変化が起きている。まず、デスクトップの工作機械と製造請負サービスが手軽に利用できるようになったおかげで、アイデアさえあれば誰でも本格的に製造業を始められるようになった。次に、ウェブのおかげで、こうした製品をグローバルに販売できるようになった。物質的なもの作りの世界での起業に対する参入障壁は、急速に下がっている」

つーまーりーっすよ、つまり、長いこと、それこそマルクスの時代からさんざん言われていた「生産手段(工場とかね)を持つ人」と、「雇われて労働する人」っていう構造は、もうそろそろ本当に意味がなくなりつつある、ということで、だから「新しい産業革命」なんですな。

小規模なものづくりのために、わざわざ土地や設備や人を用意しなくてもいい、単にそれらを適切なタイミング、適切な値段で対応してもらえる組織や人や技術力をオンラインで探していけばいいという、ウェブならではのこの発想。

で、こうした産業構造の変化は、確実にこの社会のあらゆる部門における基礎的な思想にも影響を及ぼしてくると思うので、この本は単に「製造業の未来とは」というテーマだけで読むのではなく、教育や政治といった舞台でも徐々にわきおこってくる変動を考えるうえでも大切だと思う。(と思ったら、あらためてこの本の帯の推薦文に似たようなことが書かれていた)

その流れでいえば、とくに第9章「オープンオーガニゼーション:もの作りの革新は会社組織の革新から」には軽く衝撃を受けた。企業は何のためにあるのか? という素朴な問いに、古典経済学では、企業の本質とは「時間や手間や面倒や間違いなどの取引コストを最小にするために存在する」というのだが、それすらもオンラインでのオープンなコミュニティから積み重ねていくもの作りのプロセスにおいては意味がなくなっていき、そして製造業の規模によっては安い人件費を求めてあちこち工場を移動させる必要性すら薄くなっていくという。うぅむ、そこまで考えたことがなかったなぁ、と。私がなぜかやたら昔から「DIY精神ってスゲー大事なことではないか」とぼんやり感じていたことの予感ってのは、こういうところに繋がってくるのかと新鮮な発見。

そしてなにより著者クリス・アンダーソンがこの本を、アメリカに移民として渡ってきて、技師として、またアマチュア発明家として生きてきた自らの祖父の話をベースラインにして展開しているあたりが素晴らしい。そのおかげでこの本はどこまでもヒューマンな味わいで楽しめる。つまりこの本は、孫のクリスと祖父による時空を越えた共著書みたいなものとなっているのだ。

いま、メイカームーブメントから生まれた数多くの起業家たちが、DIY精神を産業へと高めつつある。もし祖父が生きていれば、今日のオープンソースとオンラインでの共創(コ・クリエーション)を喜び、メイカームーブメントに共感したはずだ。きっと、誇らしく思ったに違いない。

もちろん、世界中にはまだまだパソコンやネットそのものへのアクセスが限られていたり、英語という共通のプラットフォームになかなか乗り切れない人々も多いわけで(私もそうだ)、そのあたりは当然ながらこの本でまかないきれないテーマでもある。その点を踏まえたうえで、それでもなおネットの世界から物質社会に影響を及ぼす産業構造の変化には目を離してはならないと改めて思い知った次第である。


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Comments

いい記事ですね。
とうとう誰もがクリエイターになれる時代が(消費者/生産者の高い垣根を崩す時代が)来たなと思います。

Posted by: のん | 2012.11.13 at 23:54

のん>サンクスです!東京にあるFablabとかがまさにそういうプロジェクトだったりします。http://fablabjapan.org/

Posted by: N.Tateishi | 2012.11.14 at 20:28

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