高所恐怖症(だったはず)の父に、モッズ・カルチャーを解説する午後
父が「高いところが苦手」ということを初めて知ったのは、2009年のポーツマスの港町のことだった。
街の中心地にある大きいタワーがあって、ちょうど夜景が見られる時間だったので、せっかくなのでのぼろうとなった。
そうしてタワーのてっぺんにきて、なかなか見られない海の景色などを楽しもうかというときに、実は高いところが苦手であるという情報が本人よりもたらされ、わずかの滞在時間でなくなく降りるしかなかった。「それを早く言えよ」という思い以上に衝撃的だったのは、30年以上生きてきてはじめて父が高所恐怖症だということを知ったことだった。「親連れ旅行」は、ことに親の知られざる一面、つまりそれまで生活していて特に共有する必要の無かった新情報がもたらされることもあるのだと実感したエピソードであった。
そして今回、ヒースロー空港に降り立ち、エスカレーターに乗りながら「今回はロンドンで何がしたいか」との問いに、はっきりと
「ロンドン・アイに乗りたい」
といってきた。
2008年まで世界一の高さを誇っていた観覧車だぞ。
本当にいいのか、と何度も念押ししたが、どうも本人の意志は固かったようだ。
(プレミアリーグ中継のオープニングでロンドン・アイがでてくるシーンなどがあったようで、ずっと興味があったそうで)
私も今まで乗ったことがなかったので、それではせっかくだからとロンドン・アイに乗ってみた次第である。
結果として、父親はまったく問題なく空の旅を楽しんだ様子。大きめのカプセルに、たくさんの観光客と一緒になってみっしりと30分ぐらいを過ごしていたが、そういうシチュエーションがかえってよかったのかもしれない。
ともあれ、「じゃああのときの高所恐怖症とは何だったのか」と言いたくなる。
ロンドン・アイは、チケット売り場のボブ・マーリー的兄ちゃんが陽気に業務を遂行していたのが好印象だった。
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翌日は、いままでなぜか行ったことがなかったステイブル・マーケットに行ってきた。
古くは、馬専用の病院だったとか。なので建物の構造上、一階だけやたら天井が高いとか、そういう風情を残している感じが印象的。そういう古い建物をそのままうまく活かして、まったく別の文化圏を作っていく巧さを実感。
まさに迷宮。今までここに来なかったことをちょっと後悔した。
思いのほか父もこのカオスな状況を楽しんでいた様子。
まさか父親に「モッド・ファーザー」という名前の店の前で「モッズとは何か」を説明するときが来ようとは。
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