75歳の父、74歳のジンジャー・ベイカーのドラム演奏に触れる
旅行の愉しみのひとつは、旅の準備をしているときであり、特にロンドン旅行となると、旅行中の期間にこの都市でどのような音楽ライヴが行われるかをいろいろ調べるのがひたすら楽しいのである。
今回は父親を連れて行く以上、一緒に行ってもそれなりに楽しめるであろうライヴを発見したつもりだった。
クリームのドラマーだったジンジャー・ベイカー率いるジャズ・コンフュージョンのライヴ。
かくいう私もそこまでクリームを聴きこんでこなかったのであるが、この機会を逃したらジンジャー・ベイカーなんて絶対に観ることはないだろうと思い、チケットを日本から予約。
そして調べたらジンジャー・ベイカーは74歳で、父親の1歳下となる。同年代のミュージシャンによる演奏に触れることで、父にもいい刺激になるんじゃないかと思ったわけである。
ちなみにベイカーの日本語で読めるインタビューが面白い(こちら)。
だが現地でおそるおそる父親に聞くと、彼はクリームはおろかエリック・クラプトンの名前もほとんど認識していなかった。70年代にツェッペリンの来日公演などを体験しているくせに、ことポピュラー音楽についてはどういうわけか明るくない。
さらに父親は、「ライヴ」と聞くと、立ちっぱなしでノリノリな状況を想像していたらしく、「これ以上疲れるのは嫌だオーラ」を放っていた。
実際には、会場となるストラトフォード・センター内の「サーカス・1」では、私たちの予約したチケットはステージに最も近い、座席エリアであった。前から2列目のど真ん中に座ることができ、そしてチケットは25ポンドなので、これは実にリーズナブルでおいしいライヴだったわけである。
そして開演前、「あんたがジンジャー・ベイカーかいな」と思わずにはいられない風貌の見事なまでの「ロックじいちゃん」が父の隣の席に座り、私にむかって「ジンジャー・ベイカーを観るのは初めて?」と聞いてきた。我々が日本から来た旅行者だと分かると、「クリームは来日しなかったよな?」っていう話からはじまり、次々と我々にジンジャー・ベイカーの良さだったり、70年代英国ロックンロールとともに育ってきた自分の音楽遍歴を語りまくってきたのである。当然ながら英語の聞き取りが苦手なのだが、なまじ彼の発するロック的固有名詞だけはすんなり理解できるので、ついつい相づちをうってしまう。
そうしてライヴがはじまり、途中で長い休憩を挟んで約2時間、ジンジャー・ベイカーはドラムをたたき続けていた。
↑お客さんがこぞって写真を撮りまくっていたので、自分も思わずカメラに収めた次第。
となりのロックじいちゃんが「ヤツは本物だ、リアル・シングだ!」と言ってきたのだが、本当にそうだと思った。というのも、すっかり父親は興奮し、演奏を楽しんでいたからである。よほど期待していなかったフシもあるが、ともあれ同年代の叩くドラムの迫力に感銘を受けた様子。
父はベイカーについて「演奏の合間にしゃべっているときは本当にしんどそうで、体も弱っていそうなのに、演奏がはじまるとシャキッとしていた」と、さすが同年代ゆえに「疲れやすさ」の観点からドラマーの演奏を評論していたのが印象的。
そう、たしかにジンジャー・ベイカーは背筋をピシッとのばしたスタイルでドラムを叩いていて、私の好きな雰囲気のドラマーだった。周りを固めるメンバーも、ベイカーとともに演奏する楽しさに溢れていたような感じがとてもよかった。
ちなみにライヴ会場からの帰り、ストラトフォード駅のバス停にむかって「ロックじいさん」がとてつもないスピードで駆けていく姿も目撃し、ジンジャー・ベイカーに負けず劣らずエネルギッシュなその姿に、なおいっそう父親も感銘を受けていた様子。
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