雑誌『spectator』の「ホール・アース・カタログ特集」を読む前に、池田純一『ウェブ×ソーシャル×アメリカ:<全球時代>の構想力』を読む
雑誌『スペクテイター』が、ついに「ホール・アース・カタログ」特集を組んできて、そっちを早く読みたい気分をおさえ、この年末年始の「課題図書」として、宿題のようにこの『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』を読んでみた。
自分は『DIY TRIP』というZineを作るべくシアトル・ポートランドにいって、DIY精神とは何かを考えようとしていたわりに、じつは「ホール・アース・カタログ」のことはほとんど知識として持っていなくって、そのことが最近になってジワジワと「あぁ、もったいなかった」と悔やまれつつもあった。そんな折に、さすが『スペクテイター』は、タイミングよく鋭いボールを放り込んできた。そんな気分。
↑いまこれも手元にあって、パラパラめくったけど、ヤバイっす。実物の「カタログ」をまだ見たことがない読者のために、かなり丁寧にこの書物の説明をしてくれている。そうそう、こういうのが読みたかったのよ的な気分が高揚。
そしてこの新書『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』は、発行年でいえば大震災の頃にあたるわけだが、「2007年以前の、あの取材旅行に出る前の自分に渡してあげたいと思えた本」だった。もちろんその時点ではこの本で取り上げているフェイスブックもツイッターも自分の生活圏では存在していなかったわけだが。
自分なりにこの新書をヒトコトで説明してみると、「アメリカの精神史をひもとき、そこからパーソナルコンピュータやインターネットが生まれていく構想力を解き明かす」という本だ(もちろん、読み方によっては違う方向性もありえる)。
で、その中心的課題、補助線としての役割として、スチュアート・ブランドという鬼才によって作られた「ホール・アース・カタログ」によって影響を受けた実践的な思想、カウンターカルチャー周辺をこの本ではものすごく丁寧に解説してくれている。
「ホール・アース・カタログ」が、単にヒッピーがDIY精神的な隠遁生活を送るうえで有益な情報を提供しつづけたメディアだったという以上に、機械技術・産業の発達や、社会生活・コミュニケーション、そして何よりエコロジー・生態系に至るあらゆる領域への反省的態度をうながしていく役割を担ってきたわけで、そこで影響を受けまくった人びとが、このカタログの思想的影響に基づいて今日のメディア環境や社会経済を作り上げてきたわけだ。
つまり、僕らの時代だとますます想像しにくいのだけど、60年代においては「コンピュータも、自然回帰的な農業も、宇宙を目指すNASAの活動も、LSDドラッグも、ヨガや瞑想も、全部、みーーーんな『意識の拡張』という目的意識のもとでは、あまり大差ないものとして捉えうる状況だった」ということがポイントになってくる。「ホール・アース・カタログ」は、それらをうまくまとめあげて、多くの人に「カタログ」というフォーマットで提供したメディアだった。結局その思想性は、今日に至るまで、つまりはスティーブ・ジョブズがアップル製品で到達しようとした領域につながっていく。
とにかくいろいろな分野にまたがった論考で、読む方もだんだんしんどくなってきそうな内容だが、でも不思議と次々と好奇心にかられてページをめくる手が止まらなかったのは、ひとえにスチュアート・ブランドという不思議な人物と、その「ホール・アース・カタログ」という、素朴な手触りの「太古のウェブ的メディア」がかもしだす時代的な煌めきというようなものが本書の内容に通底している感覚があったからだ。
どうしてパーソナルコンピュータが、インターネットが、そして2010年代にフェイスブックやツイッターがアメリカから生まれてきたのか、その根幹に迫っていくなかで、最終的な結論としては「すべては宇宙開発が先にあったからで、パソコンなどはその過程で生み出されたにすぎないもの」となっている。ただ、自分としては、「その宇宙開発ってやつも、大本をたどれば、国防・軍事利用という要素があるんですよねぇ・・・」と、小声でつぶやいてしまいたくなる。
でもまぁ、その結論が正しいとかそういうのは脇に置いてでも、「DIY精神」を考えるうえでも日本語で書かれた本のなかではとてつもなく有益な一冊。
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