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2014.11.10

『ヒップな生活革命』著者・佐久間裕美子さんトークイベント@京都市立芸大ギャラリー@KCUA

 アメリカにおいて近年ひろがりを見せているオルタナティブでインディペンデントなライフスタイルの現況を、徹底した現地取材を通して描いた本『ヒップな生活革命』(朝日出版社)の著者・佐久間裕美子さんが来日し、この数日間あちこちでトークイベントをされていて、今日は京都市立芸大のギャラリーKCUAで行われたので参加してきた。

 本には書かれていないことについて話していたことで印象的だったのは、最近佐久間さんが取材を重ねているというデトロイトの事例。
 自治体の財政破綻や不況により、産業力や人口が激減し、交通インフラも悪化していったなかで、30代の若者が、中古のバスを買い取って、いわゆるコミュニティバスを自前で運営しようとした。しかし前例がないということで、保険も下りず、なかなか現実には難しいわけである。
 そこで目をつけたのが、飲み屋さんの存在。飲んで帰るお客さんを、いわゆる「代行タクシー」みたいに家まで届けるというサービスをすると、飲み屋のサービスの一環とみなされて規制をクリアできるとのことで、「それなら地域の飲み屋さんと飲み屋さんを結んでいって、独自の『バスルート』で運行すればいい」というアイデアに至ったとのこと。
 こういう「簡単にはめげないで粘り強くアイデアをひねりだす発想力」みたいなものが、私にとっては「DIY精神」の一種だと思えるので、痛快に思う。
 そんなわけでこの本はそういう「生活革命」ムーブメントとしての発想のネタになるような事例が、食べ物やファッション、音楽やメディアといったさまざまな分野から紹介されている。どれも「あー、いい線ついてるなー!」と感心することしきりなので、こういう話がもっと日本でも一般的にひろがっていけばいいなぁと願う。

 あとどうしても個人的に質問したかったことがあった。この本で紹介されている「エースホテル」の事例が特に興味深くて、安い施設を買い取ってホテルにするのだけど、いわゆる一般的なホテルとは違って、アーティストやクリエイターといった人々を招き入れる仕組みを充実させ、部屋代を安くするなど、とにかく「人と人が出会う刺激的な場づくり」を追求していったとのことなのだが、この事例を読んで私はどうしても、自分の人生で最も大事にしている小説である『ジェネレーションX』(ダグラス・クープランド・作)のことを思わずにはいられなかったのである。
 この小説は最終的に主人公たちが砂漠の生活から離れて、小さなホテルを自分たちで経営するために新たな旅に出るところで終わるのだが、そのホテルをどういうふうにするかというプラン(妄想)が、登場人物の一人であるダグによって物語の途中で語られていて、引用すると・・・

「友だちや変人たちだけのための小さなホテルを開くんだ。スタッフには、齢とったメキシコ人の女性と、気絶するほど綺麗なサーファーやヒッピー・タイプの若い男女を雇う。そういうのは、大麻をやりすぎて脳みそがスイス・チーズ化しているからな。そこにはバアがあって、みんな名刺や金を壁や天井に止めるんだ。照明は唯一、天井のサボテンの骨格の蔭に隠した十ワット電球いくつかだけ。夜ともなれば、お互いの鼻から亜鉛軟膏を洗いあい、ラム・ドリンクを呑み、物語を語る。いい話をした人間は、ただで泊まれる。バスルームを使いたいときは、壁にフェルト・ペンで面白いジョークを書かなくちゃならない。そして、どの部屋も節だらけの松材を壁にして、お土産には、みんな小さな石鹸を受け取る」

 ・・・とまぁ、あらためて読みかえすと荒唐無稽な部分もあるが(そして何度読み返しても黒丸尚さんの訳はとてもリズミカルで素敵だ)、でも基本的なコンセプトはそのまんまな気がしたのである。「エースホテル」もこの本によればヴィンテージ家具と現代アートをミックスさせた内装に、「髪が長く伸びきって腕にタトゥーが入っていたりするキャラクターの濃いスタッフ」が玄関で迎えてくれたりしているらしく、なんだかこの小説が書かれた90年代初頭の流れから思うに、「エースホテル」を作った人々は・・・もしかして・・・・ひょっとしたら・・・このダグラス・クープランドの小説に影響を受けていたりするのでしょうか? そういう話が取材の中で出てきたりしていませんでしょうか? という、直感的かつ個人的な興味による質問であった。

 で、佐久間さんも実際この小説がアメリカでたくさん読まれていたことは認識されていたようで、そのうえで「(その小説の内容を取材時に)知っていればよかったです」と答えてくれた(エースホテル創業者のアレックス・カルダーウッド氏は昨年若くしてお亡くなりになっているのである)。

 いやー、こういう質問ができてよかった。読者としてはものすごく贅沢なシチュエーションだった。なんだか久しぶりに『ジェネレーションX』のことを強い感情とともに思い起こす機会にもなったわけで。

 でも、こうしてブログを書いていてあらためて思い至るのは、『ジェネレーションX』のサブタイトルは「加速された文化のための物語たち」とあって、これってインターネット時代の直前に書かれた小説としては、その後のこの状況にたいしてモロに響いてくる「鋭さ」があるわけで。モノや資本や人間関係とかが加速させられまくったあげくのオーバーフロー気味な昨今の状況が、こうしたオルタナティブでインディーズな生活思考のムーブメントの広がりをもたらしたのであれば、うむ、やはりこの小説は今でこそ読まれる意義のあるものかもしれない・・・などなど。


 

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