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2015.08.27

旅先で出会うフリーマーケットのはなし

 その昔、私がまだ心理学を専攻する大学院生で、いろいろ悩んだ末に休学し、その業界から足を洗うつもりでいた頃のこと。あるとき所属学会の旗印となるロゴマークの募集があり、休学の身でヒマだったことをいいことに、当時愛用していたワープロ専用機で作った図案を応募したら、それが見事に当選した。ひいては、その夏に東京で開催される学会の年次大会の、総会の場で表彰を行うとの通知が来たので、辞めるつもりでいたその学会にどうしても行かざるを得なくなった。

 すでに休学して学会も業界もきっぱり辞めるつもりの学生の立場として、学会の総会で壇上にあがることの意味をあまり深く考えていなかった私は、夜行バスで東京に向かう途中、自分が家から履いてきた「いちよ革靴」が、総会が開催される東京国際フォーラムの舞台上には相応しくないカジュアルすぎる靴ではないかと薄々思えてくるようになった。

 それは足首ぐらいまであるバスケットシューズのような黒い靴で、靴底は白いゴムが分厚く貼られていたようなシロモノで、そもそも持参してきたスーツにも合わないデザインだった。東京につく頃には「賞金がもらえるのだから、ちゃんとした革靴を買うべきなんじゃないか」という思いがつのっていた。しかしわざわざ壇上にあがる一瞬のために靴を新しく買うのも、その当時の自分の置かれている状況やその業界にたいする自分の気持ちのこともあって、今思えば浅はかではあったが、どこか素直にはなれない部分もあったのである。

 そうして朝から新宿にきて、何もすることがなかったので、その頃からサッカー熱が急激に高まっていた私は、当時の国立競技場のあたりまで歩いてみた。

 単に競技場の周囲を記念にぐるっと回るだけのつもりで行った私がそこで出会ったのは、広い駐車場で今まさに開催されようとしていた、巨大フリーマーケットだった。

 こうして翌日、私は東京国際フォーラムの舞台の上を、数百円で買ったばかりの、おそらく知らないオジさんが履き古したのであろう、サイズの少しきつい革靴で歩いたのだった。


 おそらくそういうことがあって、「旅先で出会うフリーマーケット」というのは、自分にとっていくらかの郷愁めいた気持ちになるコンセプトなりシチュエーションなのであった。


 昨年のドイツ旅行でも、何も知らずに朝のブレーメンの駅ちかくを歩いていたら、巨大な駐車場にたくさんの車と人が集まっていて、まさに「不要品処分!」といわんばかりの、文字通りのフリーマーケットに出会って、テンションがあがった私は予定を急きょ変更して、結局半日をそこで過ごすことになった。でもそのおかげで、私はブレーメンという街や人々がさらに身近に感じられたのも確かであった。やはり、旅先で期せずして出会うフリーマーケットというのは、自分にとっては何か格別な時空間である。

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 そして、このあいだのPARC自由学校でのレクチャーの翌日のことだ。新幹線で帰る直前、東京駅のほうへ歩いて行く途中、かの懐かしの東京国際フォーラムを通り抜けようと思った。

 するとそこで、ちょっとしたフリーマーケットが開催されていたのである。

 すでに夕方ちかくだったので、店の多くが閉店の準備をしているなか、とあるブースで、ペーパークラフトが飛び出す手作りのグリーティングカードを売っているおじさんがいた。

 そこで出会ったカードに釘付けになった。

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 イギリスのビッグ・ベンである。

 私のフリーペーパーを読んでくれた人は、私が父親を連れて行くほどにロンドンという街に思い入れがあることを知ってくれていると思うが、このカードをみたときに、ずっと抱えていた宿題が解けた気分になった。というのもこの2週間後に、父親の喜寿のお祝いが迫っていたからである。

 なので子どもたちでこのカードにメッセージを書いて送ろうと即断するのに時間はかからなかった。


 こうして、77歳の誕生日に、ビッグベンの精密なペーパークラフトがニョキッと飛び出るカードを、メガネのレンズ越しをさけるように裸眼で眺める父親と、それを囲む家族の姿を思うにつけ、「旅先で出会うフリーマーケット」というのは、よりいっそう自分にとっては印象的なテーマとなったのである。

 

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