いまの日本でもっとも重要な展覧会のひとつとしての「ジャングルにひそんで28年 横井庄一さんのくらしの道具展」@名古屋市博物館
決して大きい展覧会ではないが、これを観るために名古屋市博物館へ行ってきた。私にとっての「DIY的精神」の、もっとも過酷な極みの事例として横井庄一さんがあると思ったからである。
この展示では、実際に横井さんがグアムの残留兵士として生き続けるなかで自力で作った道具や衣類を紹介し、それとともに地元の名古屋の人が収集保存してきた、戦時下におけるプロパガンダポスターを背後に掲示することで、横井さんが巻き込まれた物事の背景を示していた。
そして当時の新聞記事もいくつか展示されていて、無知ゆえに私は横井さんの他に2名の元日本兵が一緒に暮らしていて、横井さんが発見された年の8年前に亡くなっていたことを、今回の展示を通してはじめて知ったわけだが、とある新聞の隅に小さく掲載されていた記事に衝撃を受けた。それは途中で亡くなった元兵士の遺族のコメントで、「8年前まで生きていたのなら、横井さんにもっと早く出てきてほしかった」というものである。それは横井さんの帰還にまつわる賑やかな報道のなかにおいて、そしてそれにともなって伝えられる「歴史のありかた」において、確実に私にとって完全に盲点の角度だった。そしてその遺族のコメントが示すような、数多くの同じ境遇の兵士たちの無念な想いが、横井さんの影で歴史のなかで消し去られていくことも、しかと認識させられた次第である。
ちなみに 「横井庄一記念館」は、いま横井さんの奥さんが自宅を毎週日曜日に開放して行っているとのことであるが、もっとパーマネントに多くの、とくに子どもたちに伝えられるような状況になってほしいと強く願う。
名古屋市博物館での「横井庄一さんのくらしの道具展」は11月29日まで(くわしくはこちら)。
ジャングルでのサバイバルのために作った道具たちもさることながら、帰国したあとの日々において横井さんが書いた掛け軸の書たちにも圧倒された。自分の力ではどうにもならない、ある種の愚かな人間たちの歴史的な過ちによって翻弄された人が書く「今日無事」、「仏心」の文字は、まちがいなく今の、この日本において、必見のものと思える。
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