「自然史」の観点からアイデア創出の秘密をさぐる:『イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則』 スティーブン・ジョンソン著
この本には邦題に問題があるように思えて、そのせいかAmazonでもレビュー数が少ないのが残念である。たしかに日本の出版社はこの本をたくさん売りたいがためにこういう安直な日本語タイトルにしたのだろうけど、そのことで「誤解や期待ハズレ感」が生じるのは否めない。この本の原題は「Where Good Ideas Come From: The Natural History of Innovation」つまり「良いアイデアはどこからやってくるのか:イノベーションの自然史」なのであり、「自然史」の部分がキモなのである。つまり歴史書として捉えたほうが適切であり、単なるアイデア発想法のハウツー本ではないのである。何よりそこは強調しておきたい。
この本ではダーウィンらにおける進化生物学の理論構築から活版印刷やコンピュータといった電子技術に至るまでを、イノベーション創発の観点でダイナミックに論じている。イノベーションは、それを生み出した個人のひらめきや能力に注目しがちであるが、それを支えたり誘発させやすい要因を史的な枠組みから捉えてみようという意欲的な一冊なのであった。
特に冒頭の「隣接可能性」の章で語られていたことで、隣り合うさまざまな部屋のドアを開けるように、あらゆる可能性を試行錯誤しながらどんどん探索していくその姿勢は「DIY精神」そのものであり(奇しくもわたしがDIY精神について他人に語るときと同様、この本でも映画『アポロ13』のことに触れているので、私はこの著者とだったら飲みに行けると思った)、そしてそのあとの章で出てくる「セレンディピティ」も、これは自分にとっては「シンクロニシティ」の話であり、まさに高校生の頃から今に至る、自分の抱えるまとまりのない関心領域を結びつけそうな道筋を語られちゃった感じがして面白かった。こういう本を書いてみたかった・・・。
「ゆっくりとした直感」の章では、2001年におけるアメリカ同時多発テロが起こる兆候を、それぞれ別の捜査官が自分のテリトリーのなかで事前に感じ取って危機意識を発信していたにもかかわわず、しかしそれら個々人の「直感、ひらめき」が結びつくことがなく、誰にも関心を持たれずに終わってしまったことの悲劇を取り上げている。これは同じ著者がその後に書くことになる『ピア: ネットワークの縁から未来をデザインする方法』にも通じるテーマなのであるが、中央集権的な古い体質の組織における「どうしようもなさ」についての著者なりの「怒り」に似た、強い主張を感じさせる部分だ。
あとこの本でたびたびサンゴ礁の話が語られていたので、いま個人的にもサンゴ礁のことについて関心が高まっている。これからの社会組織(たとえば教育機関のあり方とか)を考えるうえで「サンゴ礁モデル」っていうのは有益なポテンシャルを秘めた知見がたくさんありそうな、そういう示唆も与えてくれた。
著者によるこの本に関連したTEDトークも観られる。18分ぐらい。(こちら)
ここで語られている途上国での保育器の話や、ソ連のスプートニクからの信号をほんの思いつきで追いかけた研究者の顛末なども同書のなかでじっくり紹介されている。
ちなみにこの本の存在を知ったきっかけは、オースティン・クレオンの『クリエイティブを共有(シェア)!』における参考文献リストで挙げられていたからであった。この著者による以下の本たちはこれはこれで気軽に楽しく読めておすすめ。
■■■■
« 生き方と、構え方:『写真家ソール・ライター:急がない人生で見つけた13のこと』 | Main | シャムキャッツ「EASY TOUR 2016」の京都公演@磔磔にZINE SHOPで出させていただきます »
Comments