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August 2017

2017.08.27

ECHOESなロンドン旅2017夏・その3:バッキンガム宮殿の中を見学したり、思いがけない出会いを果たしたり。

 思えば夏の時期のロンドンにひとり旅として訪れるのは今回が初めてだった。そして「夏ならでは」、「今年ならでは」の出来事もあったのでまとめて書いてみる。

 まず、夏期間だけ限定で行われている「バッキンガム宮殿の内部見学」について紹介したい。英国王室にそこまで特段詳しくも興味もないのだが、「夏期しか入れません」と聞くと、せっかくだから行ってみようかなと思い、事前に英国観光庁サイトで予約チケットを購入しておいた。

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 ちょうど正面の大きい門にたいして南側エリアがチケットブースになっていた。私はつい、事前に観光庁サイトで購入したときのメールのプリントアウトで入場できるものと思いこんでいたが、それはチケットとの交換用紙みたいなもので、結局ひたすら行列に並んでチケットを受け取る。そのあとの入場も、時間ごとにおおまかに区切られて、待機させられたあと、ひとかたまりの集団が一斉に中に入るという感じ。そしてもちろん空港ばりの手荷物検査がある。

 入り口では他言語対応のオーディオガイドが借りられる。日本語の解説を聴きながら、最初の部屋や通路の時点ですっかり建物や装飾品のすごさに圧倒される・・・なお、写真撮影はNGなのであるが、そりゃあそうだよなぁと思った。もし写真OKだったら、まずもって客の流れは滞るはずだ。あちこち撮影したくなるし、自撮りもしたくなるだろう。

 普段そこまで装飾品やアンティークな家具に注目していない自分ですら、そこに置いてあるモノたちが放つパワーに魅了された。写真が撮れないもんだから、グググと目に焼き付けるべく凝視。「記録を許されない輝き」というのは、またよりいっそう、そこにあるモノや空間を美しく際だたせる。

 あちこちの部屋に置いてある休憩用ソファに腰を下ろし、その部屋の空気をめいいっぱい吸い込もうとするかのごとくさまざまな眺めを味わいながら感じたのは、この宮殿は決して古いだけの建物ではなく、現在も女王はじめ王室関係者が使用している「家であり仕事場」でもあるので、「人が使っている部屋」の空気感、現役感みたいなものが、よりいっそう素敵な雰囲気をつくる要因になっている気がした。「歴史や伝統」といった重たい距離感だけで圧倒するのではなく、訪れた客人の気持ちを心地よくさせ、生涯忘れられないような時間を過ごせる壮麗で気品に満ちた場所としてこの宮殿が時代を超えて成り立っているような、そういう活き活きとした感覚がわいてきたのが、思いがけず印象的だった。

 そしてまた、押し寄せる畏敬の念。ここで古来よりさまざまな人物が行き交い、向かい合い、歴史が紡がれてきたのかと思うと、「よくもまぁ、こんなふうに一般人に公開してくださったものだ」と、素直に感謝の気持ちがわいてくる。王室にしたら、これだけの建物を維持するための資金も現実的な問題としてあるわけで、90年代以降、女王が避暑地に行っている夏のあいだ限定で一般公開をするようになったようだが。

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↑宮殿を出た後の、出口に向かうまでの公園より。「宮殿アイス」とか売ってた。

 とかく、夏の間にロンドンに来る楽しみがまたさらにひとつ増えた。そう、私はまた何度でもここに来たいと思っている。ここはなんというか、「史跡見学」というのではなく、先述のとおり「いまも誰かが住んでいるご自宅のひとつ」なのである。世界最高峰に素敵な邸宅のひとつだと思うと「また来たいです、ていうか、いつかぜひ招待して!(笑)」といいたくなる、そういう「不思議な心地よさ」があったのだ。

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 さてもうひとつ書いておきたいのは、これとは別の日に、バッキンガム宮殿のあるグリーン・パークに来たときのこと。ちょうどこの時期に開催されていた「世界陸上」で、競歩の競技会場が、このバッキンガム宮殿の前を通る「The Mall」の一直線の道だった。競歩のある日に近くにいたので、ちょっとだけ様子を見てみようと訪れた。

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 そこはライヴ会場のような盛り上がりをみせていて、ちょうど女子の20kmが終わる頃だった。競歩を生で観るのは初めてだった。もはやマラソン並みのスピード感があって、地面に足をつけたままの速度とは思えないぐらい。とくにイギリス代表選手には沿道から大声援があがっていた。沿道の外国人応援団の隙間をぬって、この競技で唯一出場していた日本代表の岡田選手に「がんばれっ!」と、日本語で声援を送ることができた。

 で、次の男子20kmがはじまる直前に、別の目的地へ行こうかどうしようか迷いながら、ふらふらと競歩コースの折り返し地点のところに向けて適当に歩いていたら・・・ 「!!」












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 まさに昨晩、宿で私もテレビの生中継で観ていて興奮していた、男子100m×4人リレーで銅メダルを見事勝ち取った短距離日本代表チームのみなさんとバッタリ遭遇!! 競歩の応援に駆けつけていたようだ。
 あまりのバッタリ感に動揺しつつ、「昨日は感動しましたー!」と言うのが精一杯。
 手に持っていたデジカメですみやかに自撮りを試みたのが上記の写真。スマホとは違い、どういうふうに写っているか見えないのである意味これは「賭け」なのだが、見事にフレームにうまく全員収めた(笑)

 そのあと折り返し点の場所で男子20kmのスタートを待ちかまえてみた。遠くに宮殿を見ながら、選手たちが猛スピードでやってくる姿が圧巻だった。折り返しのときは写真を撮りつつも、この旅で一番大きな声を出して「がんばれー!」とエールを送った(タイトな日程で動いていた私はどうしても次に行きたい場所があったので、最後まで見届けずにこの場を離れざるを得なかった。)

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 というわけで、今後私にとってバッキンガム宮殿および「The Mall」は、競歩会場の賑わいと(それはロンドン五輪の追体験みたいな感じで、贅沢な時間でもあった)、そして陸上のリレーチームとの邂逅の場所としても思い出が刻まれたことになる。

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 ちなみに・・・

 最初に書いたバッキンガム宮殿の内部見学は、時間軸でいうとこの競歩のあった日の翌日のことであった。その日、宮殿見学の入場列に並ぶ前に、注意書きで「内部にトイレはないので、この近辺のトイレに事前に行くように」という案内が地図で示されていた。そこでおそらく一番分かりやすそうな場所にあるトイレに行こうと思い、The Mallの通りのちょうど真ん中あたりにあるトイレを目指して歩いた。ただ、自分のチケットの入場指定時間が迫っていたので、トイレにいくまでの道のりを急いで早歩きで向かっていて・・・ふと「あっ!? 今まさに!? 自分が競歩かっ!?」
と思って、ひとり笑ってしまった。

そういうオチ・・・。


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2017.08.24

ECHOESなロンドン旅2017夏・その2:レンタル自転車に乗って天使の声を聞く

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 今回のロンドンは自分にとって7回目の滞在だったのだが、7回目にしてようやく実現できた「夢」がある。

 自転車でロンドンの街中を走り回ることだ。

 これも時代の流れというべきか、数年前から乗り捨て型のライドシェアが当たり前のようにあちこちに設置されているのである。前ロンドン市長のボリス・ジョンソンがサイクリング好きだったようで、このあたりの施策が一気に進んだよう。なので巷ではこれらの自転車を「ボリスバイク」と呼ぶらしい。

 もちろん、このようなサービスが展開されるずっと前から「レンタルサイクル」のサービスはロンドンにも存在していたはずだろうし、「ロンドンを自転車で走り回る」というささやかな願望は、それなりに努力して調べたらすぐに実現可能だったのかもしれない。

 とはいえ、なにぶん海外旅行において、現地であの狭そうな道路を、遠慮なくハイスピードで飛ばすタクシーや二階建てバスとともに自転車で走るのは危険な感じがしていた。何せ海外では自転車は完全に車道を走るのが常道であり、日本のように気軽に歩道の上は走ってはならないのである。なので「ロンドン・サイクリング」はなんとなく遠慮していたのであった。「いつかロンドンで暮らすときがきたら、お気に入りの自転車で走ろう」なんていう、実現するのか分からない夢想のなかにずっと押しとどめていたわけである。

 しかし今回、実質5日間しかロンドンにいられない状況においては「味わえるものはどんどん遠慮なく、かつ速やかに味わおうモード」でいたので、かねてから気になっていたこのレンタル自転車に乗ってみることにしたのである。

 その記念すべきスタート地点は、テムズ川を越えた南の「旧バタシー発電所」の近くである。ここはかのピンク・フロイド『アニマルズ』のジャケット写真に登場したことで世界的に知られるようになった「産業遺構」であり、建物の姿を残したまま、周辺の再開発が最近とみに激しく展開されている場所である。2001年にはじめてロンドンに来たとき以来の再訪となったが、すっかり周辺は新しめのマンション群が立ち並んでいて、いよいよ今後はこのあたりも景色が変わりそうだなぁ(物件価格はいくらぐらいなんだろうなぁー、とも)と思いながら西日のまぶしい中をヨタヨタと歩いていた。

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 で、このバタシーから最寄りの地下鉄の駅まで歩くのがちょっと遠くて面倒くさいなぁ、バスでも乗るか・・・と思っていたら、タイミング良くボリスバイクのステーションが目に入ったので「まさに、いまここで自転車に乗るべきでは!?」となったのである。

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 このボリスバイクのくわしい利用方法については(こちらのサイト)で参照してもらえればと思うが、この利用手続きで個人的にとまどったのが、手続きの途中でクレジットカードを入れたあとにメイン画面をみると「画面の指示に従ってください」みたいな表示がでて、そのままメイン画面を直視しつづけても何も動きがなくて「?」となったことだ。ただそれはよく見たらカードを入れた箇所に別に存在している小さいモノクロ液晶画面のところで「PINコードの暗証番号を入力せよ」みたいなことが書いてあって、今はそっちの指示に従えという意味だったのね、となったことぐらいである。それ以外については、すべて日本語メニューで分かりやすく進む。

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 カード決済で24時間利用だと2ポンドだが、30分以内の利用だったら料金もかからない。そしてこのステーションには現在地や周辺状況の地図も描かれており(それゆえ、自転車を使わない観光客にとってもこれは良い道しるべの機能を果たしている)、自転車を乗り捨てることのできる他のステーションの場所も表示している。今回はその地図に描かれている範囲を越えた場所まで乗るつもりだったので、そうなると適当にステーションを探して、気が向いたところで降りるしかない。もちろん目的地が決まっていたら、交通局のホームページで検索もできる(こちら)。

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 印刷されたレシートには1、2、3の三つの数字で構成される5ケタの数字がある。ステーションに停車している自転車ならどれでも好きなのが選べて、ロックする機械についているボタンでその5ケタのボタンを入力すればカギが解除され、晴れてその自転車と旅をすることになる。

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 自転車は一般的なシティサイクルの形で、いちよ前カゴ(のようなもの)がついていてゴムバンドで固定することもできる。ただ当然ながら貴重品の入ったカバンをここに入れておくことは古今東西あまりおすすめできない。カゴとしても不十分な感じなので、風景や周囲の安全に気を取られて荷物が落ちていたら困るので、乗るときはリュックやショルダーバッグのほうがいいかもしれない。

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 サドルはレバー式で簡単に上げ下げできる。ギアは3段変速だが、ロンドンは平坦な土地なので、これでまったく十分だ。基本は3段で走り、ちょっと上り坂にきたなーと思ったら1段や2段に変えればいい。

 こうして長年の夢をかなえるべく、バタシーのステーションからまずはクルマの少なそうな住宅街の裏道あたりから「慣れ」のために路上に出てみた。たぶん初めのほうはずっとニヤニヤして乗っていたと思う(←怪しい人だ)。

 もっとも感じ入ったことは、あれほど「怖そうだなー」と思っていたロンドンでのサイクリングは、二つの点で「すごく、快適!!」となった。まず、日本とイギリスはともに左側通行の国であるため、そういう意味で比較的走りやすいということ。そして、これが何より重要なのだが、「日本と比べて、ちゃんと道路上における自転車の位置づけがしっかりとキープされている」ということだ。これは走ってみてはじめて実感できたことである。もちろん日本でも近年は自転車のためのコースや道路表示が増えてきているので喜ばしいことでもあるが、とかく車道のうえで自転車のためのラインはきちんと設定されている場所がほとんどであり、「自転車アイデンティティ」が尊重されている気分が新鮮であった。

つまり、「日本で自転車乗るよりもよっぽど車道で走りやすい!!」となったのである。
もちろん右折時などはかなり注意を要するわけで、ときどき「二段階右折」をしてみたが、よくよくみるとそのへんはクルマと同じラインでさっさと曲がっていく現地サイクリストがほとんどで、そのあたりの判断は難しさをちょっと感じたりもした。あと、日本ではあまり見かけない手信号も、現地のサイクリストはマメにやる。このへんの意識は見習いたい。

そしてたまたま近所には、バタシー・パークもあったので、すかさず入る。公園もよくみたら「自転車OKの道」とそうでない道がちゃんと分かれていて、こういう場所にくると本当にのびのびとした気分でサイクリングが楽しめる。そうでなくてもイギリスの公園は素敵なので、その楽しさが倍増した気分である。

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 旅に出てそのときの想い出を振り返るとき、「その旅を象徴するワンシーン」というのがあったりする。実は今回の旅での「象徴的ワンシーン」は、この夕方のバタシーパークのゆるやかな曲がり角を走りながら、ある種の開放感、恍惚感みたいな気分を味わったあの瞬間のなかにあった。

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 たどり着こうと思った地下鉄の駅はとっくに通り越して、とにかく自転車で走るのが楽しくて楽しくて、ぐんぐん北上するにつれて「近所にあるはずのチェルシーFCのホームスタジアムに自転車でいく」という新たな目標を思いつき、北上をやめてひたすら西へキングズ・ロードの通りを走る。ここは結構な大通りなので最初は緊張したが、信号の動きさえ注意すれば本当に快適なサイクリングで、ロンドンでもちょっと洗練された雰囲気のただようチェルシー地区というのがどういうエリアなのかを改めて自転車目線で味わえたのが本当によかった。

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こうして自転車をこぎつづけてたどり着いたスタンフォード・ブリッジのスタジアムは、またいつもと違う感じで眺めることができた(ちなみに、地図を見なくてもたどり着けるという自分の過信と思いこみで、一カ所道を間違えて、途中で引き返した)。

 やーーー、たのしい。これは、マジで、おすすめっ!!

 そしてさらに自転車で北上し、ロイヤル・アルバート・ホールをめざし(このホールについても後日このブログでちょっと書く予定)、そうして調子に乗ってハイド・パークの中も走りまくった。公園を出てさらに北上したあたりで2時間ぐらい経っており、もうそろそろ暗くなるし自転車を停めようとステーションを探しだし、いざ停めようとなったところで「?」となる。指示通りロックの機械に前輪を合わせても、なぜか作動せず。

 そのステーションはたまたまなのか、他に停車している自転車がなく、いわば「無人」だった。場所を変えて何度もトライするも、どの機械もロックしてくれないので、壊れてるのか? となる。うぅむ。

 しかし旅とは不思議なもので、そうやってグダグダと独りで戸惑っているうちに、まるで街角をさすらう天使がタイミングよく我々を見つけるかのように、遠くの背後から何か声をかけられたりするのである。振り向くと、肌着っぽい白シャツを着た白髪のオジさんが家の玄関から「もっとハードにプッシュしろ!」みたいなことを言っていた。なので自分なりにハードに自転車の前輪をロック機械のスキマにガツン!!とぶつけてみると、緑色のランプが光って、ガチャッとロックされた。なるほどー、そういう感じなのね。

ひとしきり「この自転車って、いっつもこんな感じなんだよなぁ~」みたいな雰囲気のオジさんの言葉に、英語力が足りない私は笑顔とノリだけで反応して、その場を離れた。「もっとハードにプッシュしろ」というのは、それは人生における天使からのメッセージか? とかなんとか思いつつ。私は、あのオジさんにサンキューと言えたかどうかも覚えていないのだが。

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2017.08.18

ECHOESなロンドン旅2017夏・その1:ピンク・フロイド回顧展にバンドの律儀さを想う

そもそもヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)がピンク・フロイドの回顧展を行うというアナウンスをしなかったら、どれだけの人々が、2017年がそのバンドのデビュー50周年目にあたることに気づいていただろうか。

もはや実質的には90年代に活動を止めていて、かの2005年の「ライヴ8」で一夜限りの「ありえなかったはずの4人の共演」が実現したものの、その後シド・バレット、リック・ライトがあいついで他界し、もうどうしたってこのバンドの演奏を「観る」ことは永久に、不可能になった。
なので、あのライヴ8こそは、何があっても行っておくべきだった、そういう想いをずっと引きずっているファンは多いはずだ。
そんななか、デビュー50周年を記念した今回の回顧展だ。もはや50年でも70年でもどうでもよくて、オフィシャルにピンク・フロイドが動いたら、それはもう、行かなければならないのであり、そういう状況なのであった。欧州でテロが起ころうが何があろうが、2017年の夏にロンドンにいくことはずっと前から決まっていた。

  思えばこのバンドはその初期の哀しい出来事を乗り越えてからずっと、「あなたがここにいてほしい」ということを切々と歌い続けていたバンドだったわけで、「不在、というありかた」を想い続けること、それがこのバンドの魅力に触れた人々が共通して持っている矜恃みたいなものかもしれない。バンドはもう動かない、でも「すでにいないバンド」を、目の前に観て感じること、それを共有する場としてのV&Aミュージアム。すばらしい企画。

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・・・と、えらく鼻息荒く書いてしまったが、行く前の気分はそんな感じでも、実際に4年ぶりに訪れた大好きなロンドンにおいてはただひたすら 「 ヒ ャ ッ ホ ー ! 」 な気分でタテーシは浮かれてタラタラ歩いていただけなのである。

行く前は「V&Aの建物の入口に立ったら泣いてしまうかも知れない・・・」とか想像していたが、実際はサウス・ケンジントンの地下鉄駅からそのままミュージアム方面への長ったらしい地下道を通っていったので、地味な地下入口から入ってしまい、V&Aの建物の外観の写真なんて1枚も撮っておらず(笑)、そのまま普通に博物館の再訪に満足しきって、フロイド特別展の予約入場の時間までは他の展示物をみたり、ムダに中庭に入って一人で浮かれていたのであった。

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↑この中庭でダラダラしたり、常設展示を見るだけなら無料ですよ。最高かよ。

この日は金曜日で、毎週金曜だけは夜までオープンしてくれているという粋な計らいを展開してくれているV&A。なのでなおさら、「いまからピンク・フロイドのライヴを観るぞ」的な気分になっていった。今回の特別展はゼンハイザー社提供の特別オーディオ・ガイドの数量の関係上、あらかじめ予約しておく必要があるっぽい。

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↑もうね、このオーディオガイドの機器の収納のたたずまいが、すでにアートと化していて、テンション上がる。パッと見てキース・エマーソンとかがよく使っていた旧式の巨大キーボードのコンソールみたいで。

実はこうした博物館や美術館で、オーディオ・ガイドなるものを使って観賞することが個人的に今回初めてだったりする。ましてや海外だと、どうせ英語ナレーションなんでしょう? とか思ったりするんだが、今回は展示の性質上、解説が入るというのではなく、展示エリアごとにピンク・フロイドの歴史を示すBGMが(おそらくGPSで判定される場所ごとに)自動的に流れてきたり、いくつかのモニターで流れる音声がその都度聴けたりするようなので、ナレーションの言語がどうのこうのではなく、単純に「音楽バンドの記録を展示する以上、音声をその都度聞けないと意味ないでしょう?」ということなのであった。

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↑もっとちゃんと写真撮っておけよ、と言いたくなるが、はやる気持ちが抑えられなかったと受け止めておきたい。

展覧会のサブタイトルは「Their Mortal Remains」。死せる残骸、とでも言えるだろうか。

会場に入るなり、まずはデビュー前の活動期に使っていた機材車のレプリカみたいなものが置いてあり、シド・バレットがガールフレンドへあてた直筆の手紙が展示されていて、その機材車のことがイラストで可愛らしく描かれていたりする。もうこれだけで飛行機代の半分ぐらいのモトは取れた。

「しかし・・・よく残っていたな、こんなものが・・・・」

というわけで、この感想は、その後ずっとこの本展覧会全般にわたって感じつづけることになる。

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↑最近の博物館はやたら写真撮影しまくっている人が多くて、自分としてはできる限り写真は撮影しないでおこうと決めていたが、これをみたときぐらいから、自分もどうしても写真に収めたくなってしまった。とくにこの並んだ書類の右側は、1969年5月にBBCの音楽番組に出演する際の資料なのだが、本来印字されていたシド・バレットの名前が消され、上に手書きでデヴィッド・ギルモアの名前が書かれているというもの。この走り書きのペンの文字に、重大な歴史の転換点が見いだせる貴重な記録で、後で買った図録にも掲載されておらず、これは撮影しておいてよかった。その隣のニック・メイソンによる1967年ごろの日記、「ひどいライヴだった」みたいな記述も、すごく興味深くて全ページ読みたい

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↑おなじみ『ウマグマ』のジャケット写真。これは一見すると単に壁ぎわにポツンとジャケ写真が展示されているだけなので、そのまま通り過ぎていく人がほとんどだったのだけど、よくみると左右に鏡が仕込まれているので、一歩踏み込んで近づくと、上記のような「無限ループ」な効果が楽しめる仕組みになっていたので、もし現地に行かれる方はそこを忘れずに味わって!と言いたい。

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↑若かりし日のピンク・フロイドが、依頼を断らずに映画のサントラを手がけたことにより、後々の歴史にその名を残すことになったB・シュローダー監督のカルト映画『モア』と、このポスターの作品『ザ・ヴァレ』。本当に映画はどうしようもなく救いようのない内容なのだが、しかしこのバージョンの美しいポスターははじめて見たので、新鮮な気分に。

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↑個人的に生涯ベスト愛聴盤である『原子心母』について、共作者のロン・ギーシンによる原曲のスコアが展示。フロイドのメンバー自身にとってはあまり顧みたくない作品なのはよく分かるし、展示もそこそこに・・・という感じだろうと予想していたが、この楽譜の展示は素直に嬉しかった。

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映画『ライヴ・アット・ポンペイ』でしばしば目にする、このアンプ類の機材の裏にスプレーで吹き付けられたステンシルの文字「PINK FLOYD. LONDON」がすごく味あるよなーと昔から思っていて、今回その実物が展示してあって嬉しくて、「これでTシャツ作ったらいいのに」と思ったら、その後の物販コーナーでまさにそんなシャツが売られていて、狂喜

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↑あぁ、もう、この『狂気』のジャケットデザインについての鬼才“ヒプノシス”ストーム・ソーガソンによる手書きの設計図なんて、そんなもの見た日にゃ飛行機代のモトは完全に取れましたよ!! っていう気分に。これもポストカードにすりゃよかったんですが、権利問題がありそうね。

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↑で、『狂気』のラスト『Eclipse』の歌詞だけが、この展覧会で唯一「歌詞がフルで書かれていた部分」なわけで(たしか)、それゆえに、なおさら、グッとくる。

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↑これは体験型展示として、『マネー』の曲のそれぞれのパートを好きなように上げ下げできますというもので、これはこれでハマった。ベースラインの妙味を堪能せよ、っていうことか?

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↑ロジャー・ウォーターズによる『ザ・ウォール』の歌詞やメモ書き。鬼気迫るものが。いや、ほんと、よくこんな資料出させたなーと、V&Aの関係者の仕事ぶりを讃えたい。

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↑そうそう!こういう関連写真の「アウトテイク集」が見たかったんですよ! 実際は小さいフィルムサイズだったりしてなかなか詳細は分かりにくいのだけど、逆にそれが「現場の作業感」が出ていてよかった。

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先般ブログでネタにした、『対(Division Bell)』の頭部模型との自撮り。ご満悦。

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↑その『対』のアートワークのコンセプトに至るまでの「あーでもない、こーでもない」が伝わってゾクゾクしてくる、ストーム・ソーガソンのアイデアメモ! 全ページみたいですこれもマジで!

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↑そして最後はオーディオガイドを外して、みんなで床にたたずんで、デビュー曲『アーノルド・レーン』と、「最後の」ライヴ8でのステージにおける『コンフォタブリー・ナム』の映像が広がる空間を味わう。

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↑そして個人的に「やはり!!」と思ったのが、実質的にピンク・フロイドとしての「最後の名曲」として相応しい位置にあるであろう『High Hopes』の、あの不思議なビデオ・クリップの最後に登場する謎の胸像が、やはりシド・バレットをモチーフにしていたことが、展覧会場のキャプションで何気なく書かれていて、自分のなかで合点がいったことである。

最後の最後まで「不在、というありかた」を徹底して表現し続けていたのか・・・と、あらためてビデオクリップを観ると感慨深い。

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というわけで、長々と書いてしまったが、実際はもっともっといろいろあって、想像を超えるスケールの展示だった(物販コーナーも。V&Aの公式サイトだと、まるで展覧会のTシャツとトートバッグと図録しか売ってないのかなと思わせておいて、実際はすごく多様なグッズが売られていたので、私にとっては人生で間違いなく最もお金を使った展覧会になった次第である)。

で、全体的な感想をヒトコトで言えば、「よくもまぁ、こんなに貴重な記録をたくさん残してくれていましたねー!!」ということだ。もともとは先述のようにドラマーのニック・メイソンが日記をマメにつける人だったりして、内省的と評されるバンドにおける“歴史家”および“外交官”としての彼の立場やキャラクターが、今回の展覧会実現に向けて相当大きなチカラになっていたことが伺える。

そしてまた、ピンク・フロイドというバンドがその初期から「マネージメント」におけるさまざまな問題に対処せざるを得なかったという歴史的背景があったことも、こうした「記録を残すことの重要性」を個々の関係者が意識してきた結果なのかもしれない、と感じた。それはあくまで推測であるが、「律儀なバンドの、律儀な展覧会」ではあった。

そういえばシド・バレットの脱退後も、メンバーは社会復帰の難しい彼にバンドの印税が支払われ続けるように尽力したという。そして最後の名曲のビデオクリップにまで彼の胸像を掲げて締めくくった。「不在であること」を不在のまま抱え込んで生きていくことの面倒くささ。「おせっかい」かもしれないが、本当に、律儀な人たちなのだ。

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↑5月に始まって10月頭に終わる展覧会なんで、人もそんなに混んでないだろうと思っていたけど、金曜日夜のセッションだからか、ひたすら大賑わいだった。

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2017.08.08

『誰にでも描ける! イラスト旅ノート。』(k.m.p.著)は旅=人生を楽しむ指南書としても秀逸だ

 イラストエッセイ風の旅行記をたくさん作っている2人組ユニット、k.m.p.による『誰にでも描ける! イラスト旅ノート。』(JTBパブリッシング、2016年)は、冒頭に「旅は3回楽しめる」と説明されている。それは「準備」と「旅の最中」、そして「旅のあと」だ。一度の旅をながーく楽しみ、味わっていくためにできる工夫がこの本には凝縮されている。

 本としてのトータルなコンセプトとしては「あなたも旅行の記録をこんな風にまとめてみましょう」という内容だけれども、その視点だけではなく、もはやこれはk.m.p.のお二人のこれまでの海外旅行経験から蓄積されてきた「取材ノウハウのすべて」を大公開、という向きでも読めるし、そして実際にこれまで作った本におけるカラフルでポップで濃密な紙面を、二人がどういうふうに考えて工夫して作ってきたかという「本づくりの舞台裏、メイキング」の大公開、みたいにも読める。そして一番大切な部分として「いかに旅(=生活)を楽しむか」というアイデアやコツをあますところなくちりばめてくれているという、一冊で4粒美味しい感じの、素敵な本である。

 たとえば、この本を書店でザッと立ち読みして、こう思う人は多いかもしれない・・・「こんなにマメな作業、自分にはムリ!」、うむ、それはよく分かる。そもそもがこの人たちの作る本すべてに言えることだが、ページにおける情報量が濃すぎて、すべてがマメマメしくて、超絶技巧を凝らしたアートみたいな本なのである。
 でもこれは、「あなたもこんな感じで旅行記をまとめなさい」という読み方を必ずしも要求するものではなく、「こういう旅行記を書く2人が、どんなアイデアや工夫をしているか、ちょっと知ってみたくない?」というスタンスで気軽に読んでも楽しめるわけである。つまり「自分にとって役立ちそうなものを取捨選択していく」という読み方だ。その点において「旅行をもっと自分らしく味わいたい、楽しみたい」と思っている人なら、「買い」の一冊だ。

 もし社会学系の大学生で野外調査(フィールドワーク)をしている人がいたら、ぜひこの本を参考にしてもらいたいぐらいである。旅行の計画の立て方や、現地でのメモの取り方なんかは、「実際に現場で数々の苦労をしてきたからこそ」の実用的なアドバイスに満ちている。そしてそうした作業をできる限り自分なりに楽しく実践し、その後のアウトプットをいかにワクワクしたものにするか、というところにつながっていくのが素晴らしい。

 個人的に参考になった点を挙げたらキリがないが、ひとつだけ。旅行ガイドブックの表紙を隠すために、別の大きい紙をブックカバーのようにする人は多いと思うが、その紙をわざと本の背丈よりも大きめにとっておいて、はみ出る部分を外側に折込んで、そうしてブックカバーにすることで「外側に簡易なポケットができる」というもの。「だから何?」と思うかもしれないが、私は「うぉ~!もっと早く知っておけばよかった!」となった。ささいな工夫だけども、現地で行動するときにはかなり有用なテクニックだと思えて、こういう小技は好きだ。

 そしてこの本では「番外編」として、こうして培った「旅ノートづくりのノウハウ」を、もっと身近な日常の「おさんぽ」でも活用してみては、という提案。日常も旅も同じように、「しっかり味わい、よく観察すること」や「良いことも悪いこともひっくるめて、自分なりに消化して、慈しむようにそれらを記録に残すこと」が、日々の人生を豊かにしていくことなのでは・・・というのが、k.m.p.のお二人によるささやかなメッセージだったりする。


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