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2017.08.08

『誰にでも描ける! イラスト旅ノート。』(k.m.p.著)は旅=人生を楽しむ指南書としても秀逸だ

 イラストエッセイ風の旅行記をたくさん作っている2人組ユニット、k.m.p.による『誰にでも描ける! イラスト旅ノート。』(JTBパブリッシング、2016年)は、冒頭に「旅は3回楽しめる」と説明されている。それは「準備」と「旅の最中」、そして「旅のあと」だ。一度の旅をながーく楽しみ、味わっていくためにできる工夫がこの本には凝縮されている。

 本としてのトータルなコンセプトとしては「あなたも旅行の記録をこんな風にまとめてみましょう」という内容だけれども、その視点だけではなく、もはやこれはk.m.p.のお二人のこれまでの海外旅行経験から蓄積されてきた「取材ノウハウのすべて」を大公開、という向きでも読めるし、そして実際にこれまで作った本におけるカラフルでポップで濃密な紙面を、二人がどういうふうに考えて工夫して作ってきたかという「本づくりの舞台裏、メイキング」の大公開、みたいにも読める。そして一番大切な部分として「いかに旅(=生活)を楽しむか」というアイデアやコツをあますところなくちりばめてくれているという、一冊で4粒美味しい感じの、素敵な本である。

 たとえば、この本を書店でザッと立ち読みして、こう思う人は多いかもしれない・・・「こんなにマメな作業、自分にはムリ!」、うむ、それはよく分かる。そもそもがこの人たちの作る本すべてに言えることだが、ページにおける情報量が濃すぎて、すべてがマメマメしくて、超絶技巧を凝らしたアートみたいな本なのである。
 でもこれは、「あなたもこんな感じで旅行記をまとめなさい」という読み方を必ずしも要求するものではなく、「こういう旅行記を書く2人が、どんなアイデアや工夫をしているか、ちょっと知ってみたくない?」というスタンスで気軽に読んでも楽しめるわけである。つまり「自分にとって役立ちそうなものを取捨選択していく」という読み方だ。その点において「旅行をもっと自分らしく味わいたい、楽しみたい」と思っている人なら、「買い」の一冊だ。

 もし社会学系の大学生で野外調査(フィールドワーク)をしている人がいたら、ぜひこの本を参考にしてもらいたいぐらいである。旅行の計画の立て方や、現地でのメモの取り方なんかは、「実際に現場で数々の苦労をしてきたからこそ」の実用的なアドバイスに満ちている。そしてそうした作業をできる限り自分なりに楽しく実践し、その後のアウトプットをいかにワクワクしたものにするか、というところにつながっていくのが素晴らしい。

 個人的に参考になった点を挙げたらキリがないが、ひとつだけ。旅行ガイドブックの表紙を隠すために、別の大きい紙をブックカバーのようにする人は多いと思うが、その紙をわざと本の背丈よりも大きめにとっておいて、はみ出る部分を外側に折込んで、そうしてブックカバーにすることで「外側に簡易なポケットができる」というもの。「だから何?」と思うかもしれないが、私は「うぉ~!もっと早く知っておけばよかった!」となった。ささいな工夫だけども、現地で行動するときにはかなり有用なテクニックだと思えて、こういう小技は好きだ。

 そしてこの本では「番外編」として、こうして培った「旅ノートづくりのノウハウ」を、もっと身近な日常の「おさんぽ」でも活用してみては、という提案。日常も旅も同じように、「しっかり味わい、よく観察すること」や「良いことも悪いこともひっくるめて、自分なりに消化して、慈しむようにそれらを記録に残すこと」が、日々の人生を豊かにしていくことなのでは・・・というのが、k.m.p.のお二人によるささやかなメッセージだったりする。


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