いわゆるキャリーカートやスーツケースで固いボディの場合は、車輪を床に設置した状態から見ておおむね表面の凹凸が縦向きに入っていることが多い気がする。そのことを意識するようになったのは、無印良品でリリースされている現行のキャリーカート(ストッパー付きハードキャリー)がそういった傾向とは異なるアプローチで作られていて、凹凸が横向きになっていることに気づいたからである。
そしてある日、この「凹凸が横向きであること」、さらに「それぞれの凹凸の間隔が5センチぐらいあること」によって、私のなかにあるヴィジョンが浮かんだのである。それは次の画像にあるように、「これってピンク・フロイドの『あれ』が作りやすいのではないか!?」ということだ。
これは1972年の映画『ライヴ・アット・ポンペイ』のワンシーンだが、バンドの持ち込む機材の裏面にはほぼすべて、ステンシルでこの文字が印字されていることが確認できるのである。昨年ロンドンの
ヴィクトリア&アルバート博物館で観たピンク・フロイド回顧展のときは、まさにこのステンシルのロゴをモチーフにしたTシャツが売られていて私は狂喜したのであった。
そうしたこともあり、このステンシルだったらわりと簡単にキャリーカートにペイントできるのではないか!? となった。
一度それを思い浮かべるとどうしても作りたくなってきたので、(しばらくはないとは思うが)このデザインが生産中止になる前に買っておかねばと思い、「無印良品週間」を待って「キャリーバーの高さを自由に調節できるストッパー付きハードキャリー」を思い切ってオーダー。
そうしてステンシルのシート作りに取りかかる。
今回はWindowsに標準で入っている一般的な「ステンシル」のフォントで違和感なく使えそうなので、それを用いることにした。ちなみに本物をよくみると「LONDON」の最後の「N」だけがなぜか妙な形の文字になっているのだが、そこまでの忠実なコピーはやめて、すべての文字のフォントが整った状態で印字するほうを優先した。描画ソフト(Illustratorなど)を用いて文字を並べて、それをOHPシートに適切な大きさで印刷し、線にそって切っていけば簡単にステンシルのシートができる。
(追記)ステンシルのフォントを並べたPDFデータはこちらのリンク先で提供します(「PFL.pdf」をダウンロード
)。
ここからは少し根気の要る作業になるが、文字の切り抜きについては(こちらのサイト)などが分かりやすい。失敗した部分はマスキングテープで補修してみた。
このボディの素材を調べるとポリカーボネイトとのことで、田宮模型のポリカーボネイト専用塗料スプレーを仕入れた。これは普通の模型屋に行っても見つからなくて、店員に聞くと予想通り「ラジコン専門店だったらあると思う」とのこと(ポリカーボネイトといえば、私などは真っ先に田宮のラジコン模型を連想するので)。なのでややマニアックなタイプゆえに、ネットで取り寄せるしかなかった。ホワイトと、クリアーの2種類を調達。
そしてまずテストとして、小さい星を3つ並べたステンシルを作って、目立ちにくい底面の部分に貼り付け、それぞれの星に条件を変えてスプレーしてみた。左が2度吹き+クリアー1度吹き、真ん中が1度吹き+クリアー1度吹き、右が1度吹きのみ、となった。それで分かったのは、ボディ表面の無数の小さい穴に塗料が溜まる感じになり、一回吹いただけで十分な発色が得られ、強くこすっても塗料がほとんど広がらなかった。左端のは2度吹きのときにおそらく必要以上に塗料がはみ出して、ステンシルの隙間に進入した結果だと思われる。
ステンシルだと独特の「色むら」「ボケた感じ」「荒さ」がポイントになってくるので、あまりきっちりと塗る必要もなく、スプレーは1度吹くだけでいいかもしれないと思った。
というわけで本番。切り抜いたステンシルを丁寧にマスキングテープで固定し、余計なところも新聞紙などでカバーして塗装を行う。
もちろん他の多くのキャリーカートのように縦向きの筋が入ったボディでもステンシルを吹き付けることはできるだろうが、パッと見たときの印象でいえば、やはりこの横向きの平坦な部分に文字を入れられるほうが良いはずである。
こうして無事に見事に、それらしくステンシルが印字された!(両面やってみた)
この方法を応用すれば、思い思いに好きなロックバンドの機材運搬用ケースっぽいボディをカスタマイズすることが可能だろう。
カートを使わないときは収納ケースのようにして部屋に置きっ放しにしていても、それなりにオブジェ的な存在感でインテリアに合わせていけそうなのもよい(自己満足でいいのである、こういうのは)。
こうして無印のカートのボディは凸凹が横向きになっていることの素晴らしさを最大限利用した作品となったわけである。ナイスデザインなのである。
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