« October 2022 | Main | December 2022 »

November 2022に作成された記事

2022.11.06

引っ越しのその後

Sonogo

 なんとか引っ越しを終えることができ、そしてこのブログを無事に書けていることにまずは感謝したい。

 いま何もない旧居の一室で、折りたたみイスに座ってこのブログを書きはじめている。このあと数時間後に業者さんがやってきて部屋のチェックとカギの返却があるのだが、私は引っ越し作業によって最後まで発生しつづけたゴミの残りをここで処分するべく、このマンションで定められた朝8時半までに、プラスチックゴミの袋を出すためだけに早い時間にこの旧居に到着した。あとは業者さんが来るまでヒマになるのが分かっていたので、せっかくならブログを書こうと思ったのである。

 Pomela

 何もない部屋は、それだけで神秘的な空間だ。数日前まで生活していたとは思えなくて、急によそよそしい雰囲気すら感じる。昨日も新居からここへ出向いて、「シメの掃除」に勤しんだわけだが、どんなに掃除しても自分が汚した罪は消せないかのようで、なんだかんだでキレイに戻せた自信はない。そしてゴシゴシと磨きながら、次に住む新しい部屋もこれぐらい汚してしまうポテンシャルを自分は有しているのだということに思い至り、後ろめたい気持ちがさらに高まっていった。

 そうして部屋が元の状態に戻るにつれ、7年前に賃貸会社の人に連れられてはじめてこの部屋を見せてもらい、「ここに住みます」と即断したときのことを思い出させて、急に名残惜しいような、不思議な愛着感が高まっていく。掃除をする手にも自然に感謝の気持ちがわき起こるが、そもそも普段からちゃんとコマメに掃除をしろよと言われると、本当にその通りですねと答えるしかない。うぅむ。

 さて引っ越し作業についてだが、前回のときは引っ越し当日の朝まで徹夜で作業をしたという苦い経験があったので、そうならないように早めに終わらせるべく、この2ヶ月間は自由に使える時間はがんばってひたすらダンボールにモノを積み込んでいった。そうして今回は、引っ越し当日の朝までに3時間半ほど睡眠を取った。ええ、つまり、前回とほとんど変わらないぐらいのグダグダっぷりであったことを認めざるを得ない。

 いったいどうしてこうなったのかと首を傾げながら最終日の作業を進めていったわけだが「部屋が広くなったぶん、それだけ荷物が増えたのだろう」という推測で自分を納得させるしかない。ただし前回の時は、我が家の主要な家具である組み立て式スチールラックのすべてを、律儀に全部バラした状態にし、引っ越し業者さんから「それは分解する必要はなかった(トラックに積むときは、棚のスキマにダンボールを積めるから)」と言われてガックリきたので、今回はあらためて業者さんに確認を取り「ラックの分解はしなくてもいい」となったので、そのぶん作業的にはだいぶラクだったはずなのだが、それでもこの体たらくである。

 しかも、「ラックは分解しなくていい」という思いこみが強すぎたためか、よく考えたらパソコンデスクもこのスチールラックシステムで組んでいたので、さすがにこのデスクだけは分解しないと家のドアやマンション出口までは通り抜けられないんじゃないかということに、引っ越し屋さんが来る9時間前ぐらいに気づいた。そしてあろうことか、ベッドのパイプフレームも同様に分解しないといけないことにも、このときやっと気づいた次第である。
 本来なら、この部屋との思い出に浸り、ゆったりと迎えたかった引っ越し前日であったが、実際は深夜0時をすぎてもゴムハンマーでガンガン叩きながらラックの分解作業を行い「終わらねー!!」「うるさくてゴメンなさーーい!!」となっていたことを正直に告白しておく。7年間何も成長できていない自分がそこにいた。

 ちなみに今回依頼した引っ越し業者さんは、賃貸会社の見積もりサービスを通じて紹介を受けた。いわゆる大手のメジャーな会社ではなく、どちらかというと地域密着型の会社のようであり、サービスとして事前に送られてきたダンボールには・・・

 Wakisaka

 こういうイラストが両側面に印刷されていた。この2人は創業者の似顔絵なのか、全社員の似顔絵なのか、あるいは会社のマスコットキャラクターなのか、そのあたりの説明がないままに私の新たな門出をお手伝いしようとする意欲だけが示されており、やや不安な気持ちが生じたのが正直な印象であった。

 とくに左の人物のイラストは最初に見たときからなんだかレーシングドライバーの脇阪寿一を思わせたので、私のなかでは「脇阪のダンボール」という認識になっていった。
 
 Waki

そんなわけで、このイラストがだんだんと部屋のあちこちに積み上がっていくなかで、この2ヶ月間が怒濤のように過ぎていったのである。

 そんなわけでいろいろと不安な気持ちを抱えたまま、引っ越しの朝は睡眠不足をふりきって早起きし、身支度を整えて荷物を積める最後の段取りを焦りながらフルスピードでこなしていく。結局これらの梱包作業が終わったのは、引っ越し業者さんがやってくる15分ぐらい前となり、「あぁ、引っ越しするんだなぁ」というセンチメンタルな感慨に浸る間もなく、今回も本当に、ギリギリの闘いであった。闘いといっても勝負としては完全に負けた気分であり、とにかく疲れ果てた。

 こうしてついに引っ越し業者さんがやってきた。

 そこに現れたのは、体格のよいラガーマンのような雰囲気の、いかにもパワフルそうなお兄さんであり、彼がボス役となり、あと2名の若い男女スタッフがアシスタント役のように帯同していた。
 当初引っ越し業者からは電話で「スタッフは2名でお邪魔する」と聞いていたので、3名で来たことに私は動揺した。というのも、業者さんへの差し入れとして私はレッドブル缶を2本用意していたのである。ケチらずに自分も飲む用で1本多めに買っておくべきだったか・・・と後悔した。

 内心うろたえている私をよそに、ボスはさっそくこの混雑した部屋の状態をチェックし、いくつかの質問をしてきた。そして私のほうからも、今回の梱包で最も気をつけていた部分を説明させてもらった。それはダンボールへの書き込みについてであり、箱の3つの角すべてに情報を記入し、引っ越し業者さんはどの方向から荷物を扱っても赤色の文字のところが認識できるようにした。新居には大きく分けて2つの部屋があり、「奥の部屋」と「真ん中の部屋」のどの部屋に置くべきかを迷わずに判断できるよう、ダンボールには「奥」とか「中」という文字を全部に書いた。その赤文字の面を壁際のほうに向けて置いてもらえれば、その対角には黒文字で荷物の内容を記載してあるので、積み上がった状態でも内容が読みやすくするようにしておいたのである。

 Chun
At2
 ▲中身は自分が把握しやすいように、もともとの棚をすべて記号化しておいて、ダンボールに書く手間をできるだけ省略化した。ただ、内容物もふくめてあまりに暗号めいた表記になると、しまいには自分でもよくわからない状態になることも多々あった(笑)。

 ボスの見た目は、あの例のイラストでいうと右側のおじさんの絵に似ている気がしたので、もしかしてあなたはこのイラストの右の人なんですかという質問を投げかけようかとも思ったが、そんなタイミングすら許さないスピード感で、さっそく部屋への導線には青いシートでカバーが覆われ、ボスと2名のスタッフはダッシュでトラックと部屋の間を行き来し、運び出しの準備が始まっていった。

 ボスは信じがたい速度で次々とダンボールを外に出し、それを男性スタッフがバケツリレーのように受けて地上階へ運び出し、トラックの荷台で女性スタッフがそれらをパズルのように組み合わせて荷物を収めていったと思われる。「思われる」というのは、私はその光景を見る余裕がなかったからで、ひたすら自室でボスが荷物を運びやすいようアシストするべく右往左往するだけだった。そしてボスはあえて掃除機を持って行かずに残していたので「あぁ、これで掃除をしておけということか」と気づき、空いたエリアにはひたすら掃除機をかけていった。

 休むことなくボスは荷物を持ってダッシュして外に出し、ゼェゼェ・ハーハーいいながら次の箱へと向かっていく。どうしてそこまでスピード勝負なんですか、何か悪の組織にでも狙われているんですかと言いたくなるような勢いで作業にあたっていたので、それはまるでよくレッドブル社がプロデュースしているようなある種のエクストリーム・スポーツみたいな状況だった。そしてレッドブル缶を差し入れに用意していた自分の慧眼を思った。

 そして何往復かしたあと、ゼェゼェハーハー状態で紅潮した顔のボスは突然「マスク外していいですかっ!?」と聞いてきた。さすがにこんなエクストリームな状況下で「いや、それは困ります」と言えるような度胸のある客はいないだろう。ボスは2名のスタッフに向かって「マスク外す許可をもらったぞ!」と伝えて、引き続き世界記録更新に挑むかのようなスピードで荷物が運び出されていく。

 こうして驚くべきことに、2ヶ月間かけて作り上げた無数のダンボールの山が、1時間ほどですべて部屋から消えた。「感動した」としか言いようがなく、実際にボスにもそう伝えた。

 ただ、感動し続けている場合ではなく、これで前半戦が終了しただけである。次は新居に向かわねばならない。業者さんはトラックで向かい、私は電車で向かうことに。そしてその途中でレッドブルのシュガーフリーの缶を追加で購入した。
 
 「電車のほうが早く着くと思います」とボスに言われたが、実際に新居に到着したら、トラックのほうが先に待っていた。エクストリームな彼らなので(おそらく別件の作業がこのあとも立て込んでいたのだろう)私が着くなりさっそく作業が開始となり、常温でぬるくなったレッドブルの差し入れを渡すタイミングはすべてが終わったあとしかないなと思った。

 さて、今度は新居への運び込みになるわけで、すべてのダンボールは置くべき場所が書かれているが、それ以外のものはすべて私がその場で置き場所を伝えないといけない。事前に私は家具の配置についてあれこれとパソコンのお絵かきソフト(Illustrator)を使ってセンチ単位で検討しており、家具の置き場所そのものは大丈夫であるという自信はあったが、問題はモノの物量であった。作業開始にあたり、ボスにだいたいの家具の配置を伝えてイメージを共有したが、ボスからは「部屋の大きさは(旧居と比べて)どうなんですか」と問われ、大きさはさほど変わらない(はず)と伝えた。しかしそういう質問があったということは「荷物が全部収まるのだろうか」とボスが心配している可能性がある。引っ越しのプロである彼がそう感じるのであれば、もしかしたら荷物が多すぎるのではないかと私も不安になってきた。

 そんななか運び込み作業がスタートした。幸い新居のマンションにはエレベーターが備わっており、アシスタントの2名はトラックから降ろした荷物をエレベーターまで運び、ボスが上階でそれらの荷物を受けて台車に乗せて私の部屋に来るという段取りだった。

 そういうわけで、この状況で私はひたすらボスが荷物を運び込むのを見守るだけであった。開けっ放しのドアからボスがダンボールとともに現れ、箱に書かれた赤文字をもとに部屋に積んでいき、またダッシュで部屋を出ていき、ゼェゼェハーハーと再び台車にダンボールを運んで現れる・・・の繰り返しである。
 たまにダンボール以外のものがあると、どこに置くかを聞かれて即興で答えていくが、果たして本当にここに置いていいかどうか、ダンボールで埋まっていく部屋のなかにおいてその後の作業のことを考えるとだんだん自信がなくなってきたりもする。

 そうして、部屋の中は案の定、かなりのダンボールで占められてきており、「あと半分ぐらいあります」とボスが教えてくれて、地階のトラックの中身が見られない状態なのでやきもきしてしまう。そうしてドアの向こうからボスが荷物とともに現れるたびに「まだあんのかよ!」 と、自分がそのダンボールを作ったくせにそういうことを思ってしまうので、運んでいる作業員の方々はなおさらそのように感じていたのではないかと思う。

 ダンボールに赤文字で書いた「奥」や「中」の指示は、実際に部屋に入って荷物を置いていくボスにとって重要な情報であったが、部屋いっぱいにダンボールがたまっていくにつれ、荷物の量に不安を抱えているボスからは「『奥』の箱がまだ続きます!」とか「たくさんの『中』が来ました!」とかいうセリフが発せられるようになり、私にはなんだかそれが、どことなくボスが麻雀をやっているかのようなノリに思えた。図らずも麻雀の牌には赤字で「中」と書かれた牌があるわけで・・・。

Chuntakusan

 そんなわけで、最後の荷物が運び込まれたときには、かろうじて部屋の中は人間が移動できるスペースが残されていることが確認でき、途方もない安堵感に包まれた。これまでの2ヶ月間の苦闘がようやく報われたような気持ちであり、エクストリーム・スポーツ状態の作業員の方々には心からの畏敬の念を覚えた。まぁ、これは単なるビジネスでもあるので、そのまま彼らは料金(およびレッドブル缶の入ったビニール袋も)を受け取ると挨拶もそこそこにさっさと走り去っていったわけであるが、この時点でお昼の12時ごろだったわけだから、たった4時間ですべての作業が終わったことに驚くしかない。
 
 で、こうしてブログを書き続けているあいだに、引っ越しの日から一週間ほど経っており、案の定、部屋にはダンボールがたくさん残ったままである。ミニマリストよろしく、必要最低限のものだけを取り出して生活をリスタートさせており、不便な状況もそれなりに楽しみつつ、できる範囲でダンボールを開けてはつぶして、中にあったモノたちの置き場所を思案しつつ、元の生活リズムに少しずつ戻していっている状況だ。

 そしてこのブログの文章を書いている時点で現実逃避になっていることは否めない。本来は他にやるべきことが山積みになっている・・・そして、そう、「脇阪のダンボール」はこの状況において「早くコイツらから解放されたい」という気持ちをかきたてるのに十分なオーラを放っており、なるほどこのイラストはそういう役割を担っているのかもしれないと思えてきたわけである。

Wakisaka
▲お世話になりました。(まだ片付けは終わってないけど)

| | Comments (0)

« October 2022 | Main | December 2022 »