なぞかけ配達員さん
職場で自分がいる部署に、たまに来る配達員のおじさんがいる。少年がそのまま歳をとった感じで年齢が判別しにくく、目がギラギラしている。陽に焼けて色黒くやせ細っていて、やつれた感じがうかがえるところに運送業の大変さを思わせるが、いつもどこかしら「昨晩は深酒しちゃいましてね」と言いたげな雰囲気でフラリとやってくる。
このおじさんは荷物を配達して普通に帰って行けばいいものの、しばしば「つぶやき」が付け加わってくるのであった。例えば受領書と控えの伝票が2枚セットになっているものを、1枚はがして持ち帰るにあたり、そのおじさんは「これがぁ~! いっつも、ウマくできないんですよねぇぇ~何年このシゴトしてんだかねぇぇぇ~」と自虐的にわめきながら、実際にぜんぜん薄紙がめくれずに苦闘していたりする。
こういう「可愛げのあるボヤキ」が、状況を問わずついつい口にでちゃうタイプのようで、俳優でいえば『北の国から』の田中邦衛を彷彿とさせるような昭和感をふんだんに放っている。おそらく仲間から麻雀に誘われたら、弱いくせにいつもホイホイ張り切って参加するものの、案の定たくさん負けまくって、その「ボヤき節」が皆からの笑いを誘うような、そういう姿を想像させてしまう人の良さがある。令和の時代において、もはやこういうおじさんは絶滅危惧種のような気もしてくる。
その日も配達員のおじさんは我々のところへやってきて、同僚のTさんが応対した。最近この部署に異動してきたTさんはすぐれたコミュニケーション能力を持っているため、このおじさんともすぐに仲良くなり、近頃はもっぱらTさんが配達員さんの相手をして、しばらく談笑するまでになっていた。
デスクの配置上、いつも私は彼らの談笑には背を向ける位置で仕事をしているのだが、この日は配達員のおじさんが突然Tさんに「なぞかけ」を出題してきたもんだから、それを背中ごしに耳にした我々もすかさず仕事の手を止めて振り返り、おじさんに向き合うこととなった。
「夏バテとかけて、宇宙に出ちゃったと説く。そのココロは?」
と、おじさん。
お、おう・・・。
ううむ、さっぱり分からない・・・。
同僚たちも首をひねる。
おじさん、ドヤ顔で甲高い声をあげて、
「こたえ、『くうき』がない!」
ああぁぁああぁぁあぁ~!!
なるほどおおぉぉおおぉ!!
「食う気」ね、はいはいはい!!
そもそも「なぞかけ」と真剣に向き合うことになるのは、少なくとも21世紀に入ってからは初めてのことだと思えるので、こうした「トンチを効かせていく感覚」が異様に新鮮だったりする。
我々のリアクションをみて興に乗ってきたおじさん、得意顔で第二問。
「大雨とかけて、鍋料理と説く。そのココロは?」
ううぅ、これも分からない。
雨? 鍋? なんじゃそりゃ。
またしても、みんな答えが出せない・・・。
「こたえ、あとはゾウスイ!」
うおぉうおああおあああぁぁぁぁ~!!
くっそおおおお!!!
面白いやないかい!!
ここまでくると、我々のほうから「師匠、もう1問ください!」というノリになっていた。
つづけて第三問。
「次も大統領選挙に出たがるトランプとかけて、人の来ない神社と説く。そのココロは?」
これはすぐ分かった!
私もドヤ顔で即答。
「再選(賽銭)がない!」「正解!」
第四問。
「カルメンとかけて、危ない電話と説く。そのココロは?」
「・・・オレオレ!?」「正解!」
もはやここまでくると「なぞかけ的思考」のコツがつかめてきたようで、嬉しくなった。
こうしてひとしきり盛り上がり、私の悪い癖というか、書き手としてのサガというか、「これはブログのネタになる」と思ってしまうと、ついこのおじさんにインタビューっぽく尋ねてしまうわけで(仕事に戻れよ)、どうしてなぞかけに興味を持つようになったのかを聞くと、「配達中のクルマのなかでいつも聴いてるラジオ番組でなぞかけのコーナーがあり、自分もよく投稿している」とのこと。
ラジオを聴きながらハンドルを握る手でパン! と膝を打ち「ハッハー! ウメぇこと言いやがるなぁぁぁ~!!」とか唸っているおじさんの姿が容易に想像できてしまう。
今思うと、あの日に出してくれた問題もおじさんの「自信作」だったかもしれない。そのことを聞きそびれていた。
しかしそれをあらためて訊く機会が今後はなさそうである。なぜなら、この日おじさんは帰り際にこう言ったのである。
「実は今日で私はこのエリアの担当を外れますので、
みなさま、ごきげんよう!!」
さんざん「なぞかけ」を出して、名前も知らないままのおじさんは我々の前から去っていった。
なんだかコメディ映画のワンシーンのようであった。
なぞかけ配達員さんに幸あれ。














































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