案の定、ひとりで「地味ハロウィン」に行ったことは友人たちにバレてしまったわけだが。
あらためてブログでその報告をしたい。
デイリーポータルZが数年前から提唱している「地味ハロウィン」はかねてからぜひ参加したいと思っていたイベントだった。今や類似のイベントがほかの地域でも行われるようになってきたのだが、やはり最初は本家本元での現場を味わってこそだろうと思い、こっそりと渋谷の東京カルチャーカルチャーまで行ってきた。
ところで、地味ハロウィンに参加するにあたって最大のポイントは言うまでもなく「自分はどんなネタで仮装をするのか」にある。以前からあれこれと妄想を重ねてたどり着いたネタがいくつかあり、そのうちのひとつにしぼって数ヶ月前から少しずつ衣装をそろえていたのであるが、初めての本家・地味ハロウィンが近づくにつれて「果たして本当にこのネタでいいのだろうか、そして自分の人生はこれでいいのだろうか」といったような疑念が消えることはなかった(まぁ、だいたい毎日そういうことで思い悩んでいる気もするが)。
そんななかイベントの直前になって、ある友人がかつて「速読術を教える塾みたいなところで事務アルバイトで入ったはずが、腕を見込まれて、速読を教える側になった」という話をしていたことを急に思い出し、「ー!!あああああ!!」となった。
「速読術の指導者」。 シャツにネクタイ(つまり普段の仕事着)、それに分厚めの本を一冊持って行けば完成する仮装。これこそ地味ハロウィンらしいネタではないだろうか。そして毎回写真でみる限り、参加者は「名札」をぶらさげることになりそうだから、その名札も含めて速読術を教える人っぽい雰囲気になりそうだ。
・・・と、思いついた直後の盛り上がりから、時間が経つにつれ冷静さが加わってくると、この地味ハロウィン独特の難しさに直面することになる。それは「ある対象となるものを自分が表象すると、その対象をどこかでバカにしていると見なされる」という問題である。
「あんたは速読術をバカにしてんのか!?」と言われると、うむ、たしかに心のどこかで「ホントに読めてんの?」と思っている部分があるのは認めざるを得ない。その一方でほんのちょっとだけ、「できることなら自分も速読を身につけてみたい」というあこがれの気持ちもある。で、速読術というよくわからないものごとについてそれを教えることが仕事になっている人が(自分の友人も含めて)この世の中に存在していることに「マジか!」という素朴な驚きがあるわけで、その驚きをほかの人とも分かち合いたい勢いだけでネタにしてしまった部分もあり、このあたりはなんとも言い難い部分である。そういうことを考え出すとたちまちモヤモヤすることとなったが、すでにそのときにはシャツにネクタイ姿、そしてカバンには分厚い本が入っている状態で新幹線に乗っていて、早朝から渋谷の東京カルチャーカルチャーに向かっていった次第である。
駅を降りて歩くなかで、周りの人々もひょっとして地味ハロウィンの仮装をするのだろうかと妄想すると、歩いているだけでニヤニヤしそうになる。それと同時に、会場に近づくにつれてやはり緊張感も出てきて、開始時間までまだ時間もあるし、どのタイミングで会場入りすればいいか考えあぐねつつ、ビルの周りをうろうろ周回したり。
今年の地味ハロウィンは事前に無料チケットを申し込み、3部入れ替え制で行われた(つまり去年あまりにも人が殺到したらしいのである)。Peatixのサイトにつながり、スマホに同社のアプリを入れたらスマホ画面からチケットが表示される。
会場に入る前に、入り口に置かれたカウンターで名札に「どんな仮装をするか」を記入するよう求められた。マジックペンが備え付けられているが、自分でペンを持ってきたら自由な色でカラフルに書けるだろう。名札ケースには白色と緑色が用意されていて、緑を選ぶと「取材NG」という意思表示になる。カウンターのテーブルには「地味ハロウィン」のロゴ入りシールとかデイリーポータルのステッカーなどが無造作に置いてあり、早いもの勝ちでもらえるような状態だった。
で、この時点で周りの人たちが名札になんと書くのかが気になってしまったり、逆に自分の(あまり自信のない)ネタをここで書いてしまうことに、どことなくためらいが生じる。単なる名札に何かを記入するのに、ここまで気恥ずかしさや戸惑いを覚える感覚は新鮮である。
開場までまだ時間があったようで、店の裏の非常階段みたいなところに順番に整列させられた。ライヴハウスの開場前みたいなノリだが、さっそく怪しげな装いの人や、まったく何のそぶりも見せない一般人的な人まで(まぁ、ほぼすべてここにいるのは『一般人』というカテゴリーなのだろうけど)ずらっと階段ぞいにたたずみ、その人たちを横目に結構な階数を上った気がする。何人かは先ほど書いた名札をつけていたので、どうしてもそこに目がいくし、私は私で恥ずかしさのなかで慎重に名札を見せないように階段を上がっていった。
やがて開場とともに再び下の階に移動し、お店のあるフロアに戻ってきた。男女それぞれに更衣室も案内されるが、更衣室内に荷物を置いたままにはできず、クロークやコインロッカーなどもない。荷物は参加者各自で持ったまま動くことが求められるので、もし仮装の関係で大きい荷物になる場合はこのあたり事前に注意が必要だ。
ステージのあるメイン空間には中継動画配信のスタッフさんやら、デイリーポータルZのライターさんたち、そして東京カルカルのスタッフが、朝一発目の回ということもあって、文字通り「待ちかまえて」おり、そこにぞろぞろと「一般人たち」が足取りもおぼつかずに加わっていく感じになった。私は更衣室も必要としない素のままの格好なので、なおさら浮かないようにと、とりあえずカバンから分厚い本だけ取り出して、名札を表に向けてかけて、そのままステージでしゃべっている林さんと古賀さんを直立不動で眺めていることしかできなかった。デイリーポータルのイベントに来たのは久しぶりなので、お二人を拝見するのは10年以上ぶりであった。いつも記事を読んでいるから分かっていたが、お二人ともお変わりなく、陽気な雰囲気で心和んだ。
そんなわけでオープニングのトークが展開され、さっそく参加者が一人ずつステージにあがって仮装を披露する運びとなった。受付で渡された名札カードの裏には整理番号が印字されていて、その番号順を目安にステージに上る。動画の中継もあるからか、テンポよく次々と順番に紹介されることになるわけで、もしあまりに張り切って早めの整理番号を受け取ってしまったら、自分の場合はテンション的に厳しかったかもしれない。なお、整理番号順にフロア脇の待機コーナーに並ぶことになるが、「いま何番から何番までお呼びしています」というアナウンスが特にかかることはないので、並んでいる人や、待機列の端にいるスタッフさんあたりに個別に直接尋ねて、いま何番目ぐらいの人が並んでいるかを知ることとなる。なのでステージにあがる決心がつかない人でも、クヨクヨと悩んだあげくに遅れて並ぶこともできるので、このあたりのユルい感じは大切だ。
列に並んでいるあいだに、スタッフから小さいホワイトボードとペンを渡され、そこに名札と同じように「何の仮装か」の説明を記入する。ステージにあがるときにMCの古賀さんに渡すと、「何の仮装でしょうか」と問われて自分が答えるときに、ホワイトボードを客席に向かって提示してくれる。一人で来ている人は荷物ごとステージにあがって、適当なところに荷物を置いておいて、トークが終わったらホワイトボードを持ったままステージ上手のほうに移動して、スタッフによる写真撮影をしてもらって、ステージを降りて客席に戻るという流れだった。各回が3時間のイベントで、おそらく参加者は150人から200人ぐらいで、舞台上では一人1分ぐらいの感覚で回っていく。
私の整理番号は58番目だった。いざステージにあがると、緊張と戸惑いの入り交じった不思議な時間が一瞬で流れていった感じである。林さんと古賀さんに挟まれつつ、言いたいことは言えたし、それなりにフロアの人々も笑ってくれたので、ひとまず安心した。どちらかというと「顔芸」で勝負するネタのような感じになったが、これは緊張や恥ずかしさが高ぶっていたがゆえかもしれない。
ほとんどの時間は床に座って各参加者の仮装披露を楽しませてもらったわけだが、新しい発明品の披露のような、次々と繰り出されるイノベーション(?)に「そう来たかー!」とうなってしまうばかりであった。このあたりは公式サイトでまとめられているので(私のネタも含め)じっくり堪能していただければと思う(こちら)。そして「よくこんな小道具を準備しましたね」っていうポイントにはすかさず林さんや古賀さんからツッコミが入るのだが、かなりの割合で「Amazonで買いました」という返答だったので、つくづくAmazonっていろんなものが売っているのね・・・と感じさせたり。
そして、ステージ上で仮装を成立させるためにポーズを取ったり「キメ顔」を披露したりする参加者の多くがとても素人とは思えない巧さで、ひょっとしたら演劇部出身の人が多いのかもしれないとすら思えた。
そして今回参加して、何が最も印象的だったかというと、それぞれの仮装ネタ以上に、それらを打ち合わせナシで即興で応対していく林さん・古賀さんによる細やかで見事なさばきっぷりなのであった。この企画に参加するにあたって、仮装の内容が事前に審査されることもなく、それぞれが好きなように仮装ネタを持ち込んでいくわけなので、ステージ上のお二人(そして運営側スタッフ全員も)は、これからどんなネタが持ち込まれるかまったく分からないまま、次々とコメントをつけたりツッコミを入れたり笑ってあげたりする。この反射神経、引き出しの多さ、臨機応変・変幻自在のトークにはひたすら感銘を受けまくった。
たとえば「正直、あまり面白くないネタ」だったり「あまり笑えないネタ」というのもあるわけだが、そういうものも林・古賀の手にかかると、それなりに見どころのある仮装として成立するようにちゃんと笑顔になれる着地点を持って行く。もはや、「地味ハロウィン」のイベントとしての存在意義がどーのこーのと言われることとかを超越して、このイベントを考えついて実行に移したデイリーポータルZという老舗サイトの、常に斜め上をいく面白さを体現しつづけてきたこのお二人の鬼才とも言えるポテンシャルがいかんなく発揮されまくる進行っぷりを目の当たりにできることが、このイベントのすべてかもしれない。
そんなわけで一通り仮装の披露が終わると、残り時間はフロアでの参加者同士の談笑や写真の撮りあいのような流れになった。
私が今回の参加者のなかで「これは!」となったネタのなかで、特にひとつだけ挙げるとすると、この人かもしれない。
「登山具店のマネキン」。
これを自分が思いつかなかったことを大いに悔しがらせるような、そういう意味でこれこそが地味ハロウィンのお手本のような作品ではないだろうか。(マネキンに問いかけると、やはり『暑いです』と答えてくれたが 笑)そして談笑タイムのときに参加者があちこち動き回っているときもこの人は壁際でマネキンらしく微動だにせず固まってポーズを取り続けていたので、そのあたりのプロ根性(?)を見るにつけ「この人は信頼できる・・・」と思わせた。でももし次の機会のときに別の仮装でお目にかかっても、言われなければ「あのときのマネキンの人だ」と分からないのが残念ではある(笑)。
そして突然、マイクをもった女性と、デジタルビデオカメラをもった男性が近づいてきて「取材いいですかー?」と聞かれた。「フジテレビ 報道」と書かれた腕章がネックストラップから下げられていて、失礼ながら「これは仮装ですか?」と真剣に聞いてしまったが、「いえホンモノです」と言われ(それでもどこかで疑ってしまわざるを得ないのがこのイベントの面白さの一部であるが)、素直に取材を受けた。一通り速読術の指導者として本をパラパラめくって見せたり、速読術ができるのかと聞かれたり(できません)、普段の職業を聞かれたりした。放送されるとすれば明日の朝になりますと言われたが、念のため確認したら関東ローカルなので、関西では観られなかったため、それはそれで少し安心した(笑)
そうして最後に集合写真を撮って解散となる。何せ3部入れ替え制であり、このあたりは潔くすみやかな退室が求められるので、本をカバンにしまって東京カルチャーカルチャーを後にした。それにしても3時間のこのイベントを1日に3回転するというのは、かなりの労力であろうと想像される。
そう、冒頭に述べた通り、私は今回この地味ハロウィンに出ることは友人たちに伏せていた。しかしさすがSNS、結果的にいろいろと反応をいただく。
特に「!」となったのはこれである。
仕事で交流のあった中国からの元・留学生さんが、本国からメールで教えてくれたのであった。。。
中国でも紹介されてんのか!!!(笑)
この「速読法の指導者」が、
って文言で紹介されると、もはやこれはネタなんだかよく分からないスケールの話になってきた。
・・・そんなわけで、もし良いネタが新たに思いついたら、またこの現場に戻ってきたいと思う。そういう「くだらないこと」にも思いを馳せるだけの心の余裕をもって日々の身の回りを観察していくことって、実はものすごく今の日本で生きていくなかで大事かもしれないとマジで思っている。
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